「で?あれ以来どうなの?」

コテンと首を傾げ、純粋な瞳で聞いてきたのは美人さんの城ヶ崎さんだ。そんな城ヶ崎さんにつられるように興味津々なおませさん達が一斉にコッチを見てくる。いつの時代も女の子は恋バナが好きだね。

「いや、どうと言われても…」
「毎日一緒に帰ってるんでしょ?」
「そうだよー?しかも、手繋いで帰ってるんだからね!」
「「「キャーッ」」」

ちょ、まるちゃん。話をデカくしないでおくれ。…事実だけど。なんでそんな自慢気なの。

「あれ?でもユキちゃんと大野くんって方向違うんじゃなかったっけ?」
「あーうん、そう。」
「大野くん、毎日ユキちゃんの家まで送って行ってるんだよ。」
「「「えーっすっごーいっ!!」」」
「いやいや…」

たまちゃんまで…。

お昼休みの一時。外に出て鉄棒辺りに集まって女の子達は井戸端会議。メンバーはまるちゃん、たまちゃん、としこちゃん、城ヶ崎さん、笹山さん、そして私。内容は主に私と大野くんについてだ。

「でもこの間は本当に驚いたよね!」
「ホントよねぇ。」
「ねー。」
「大野くんってスポーツ出来るし、結構モテるよね。」
「隣のクラスにも好きって子居るみたいだよ。」
「へ、へえ…」

校庭を見れば其処では男子達がサッカーをしていた。その中で人一倍活躍していて、楽しそうなのは大野くんと杉山くんだ。
うん、格好良いとは思うよ。…でも小学生じゃん!私も見た目は小学生だけど、中身がさぁ親子じゃん。……今凹んだ。

「おーいユキーっ!」
「ほらユキちゃん!」
「大野くん呼んでるよ!」

ええー。
ヒューッなんて大野くんと一緒にサッカーをしていた男子達がはやし立てる。周りの他学年の生徒達も何事だと視線を投げてくる。や、やめてー!私を見ないでー!
この間は放心していたくせに、なんでそんなにはやし立てるんだ。慣れか慣れなのか。
いつまでも拒否していても仕方がないので渋々、本当に渋々数歩近付く。すると大野くんも笑顔で走り寄ってきた。

「…はい。」
「なんで敬語?まあいいか。見てたか今のシュート!」
「え?あーうん、見てた見てた。」
「どうだった!?」

キラキラキラキラ。ま、眩しーっ!そんな純粋な瞳で私を見ないで!

「う、うん。格好良かったよ。」
「!…へへっ」

きゅん。
な、なんだその可愛さはー!!内心悶えていると予鈴が鳴った。皆に続いて下駄箱に向かおうとすると、後ろからクイッと手を引かれた。そのせいでまるちゃん達とはぐれ、置いてきぼりをくらう。

「…大野くん、行かないと遅れちゃうよ?」
「少しくらい大丈夫だって。」

周りの生徒が居なくなって、笑い声と足音が校舎の中から響いてくる。私達は下駄箱で二人、手を繋いだ(掴まれた)ままのんびりと靴を履き替える。(いや、私は少し焦っている。チキンで良い子ちゃんだから。)

「大野く…」
「なぁ」

きゅっと少しだけ強く握られた手に視線を落とす。再び視線をあげた先には、真剣な顔をした大野くんがいて。

「好きだ。」

少しずつ、少しずつ近付いてくる顔を拒む事なんて出来なくて。閉じられた目。あ、睫毛長いなんてベタな事を考えた次の瞬間。本当にそっと触れるだけのキス。
ううん、キスなんて大人なモノじゃなくてちゅーだ、ちゅー。
まだまだ愛情表現の仕方が幼稚で、未熟で。でも、それでも今出来る精一杯が込められたソレに胸が締め付けられた。

「…行くか。」
「…うん。」

先を歩く彼をチラリと盗み見る。いつも飄々としていた大野くんだけど、ふと見えた耳が真っ赤で。
そんな姿にクスッと笑ったら、大野くんはむくれた顔で視線だけこっちに寄越して、繋いだ手に少しだけ力を入れた。そんな彼を見てほんの少しだけ、手に力を込めて握り返した。