「そういえばお前、かぶき町来たこと無いんだっけ?」
「あ、はい。なかなか機会がなくて。」
「ふーん…なら案内してやるよ。明日11時に彼処のコンビニな。」
「え?あ、はい。宜しくお願いします?」
「おー。」

こうしてデート(いい歳の男と女が二人きりで出掛ければそれはデート)を取り付けたのが昨日だ。
そして今俺はコンビニで立ち読みをしている。時間は10時50分。べ、別にずっと居た訳じゃないから。今週号のジャンプ読んでただけだから。ワンパーク読んでただけだから。
時間的にそろそろ来るかもしれねーな。…厠行って鏡もついでに見てこよう。いや、あれだよ?髪がはねてるか見る訳じゃねぇから。
厠から出ると丁度店内に入ってきた眺めていたユキと鉢合わせ。思わず動きを止めた。

「あ、坂田さんおはようございます。お待たせしたみたいでスミマセン。」
「え?あーいや?全然待ってねーよ。んじゃ行くか。」
「はい。宜しくお願いします。」
「おー…」

髪を下ろしたユキはいつもと少し雰囲気が違って何となく目が泳ぐ。凝視し過ぎたせいかユキが軽く首を傾げたので、ゴホンと咳払いをした。

「あー、どっから行く?どっか行きたいとことかあるか?」
「えーと、根本的に何が在るのかも知らなくて。」
「そうか、なら取り敢えずぶらつくか。」
「はい。」

コンビニを出てかぶき町に向かう。
いい天気だなーなんてありきたりな事を言って、他愛もない話をポツリポツリと話しながらのんびりと歩く。

「つってもなー、この町の営業は基本夜だからな。」
「呑み屋さんが多いですもんね。」
「夜の蛾だかんな。」

蝶なんてもんじゃあ決してない。あれはバケモンだ…って、あ。

「ん?あら、パー子じゃない。」

前方から道のど真ん中を堂々と歩いてきたのはバケモン二匹だった。思わず顔が引きつる。

「…あ、ほらあっち見てみろよ。あそこの居酒屋がわりと…」
「ちょっとパー子!無視してんじゃないわよ!」

肩を掴まれ、バケモンの方を向かされる。顔は引きつったまんまだ。

「アゴ美やめときな。」
「いや、アズ美だけど。なんでよママ!」
「よく見てみな。」
「え?なぁに…って、あら。」
「…こんにちは?」
「あらあら、やだ私ったら!ごめんなさいパー子、デート中だったのね!?」

その変な名前で呼ぶんじゃねぇぇえええ!!ユキがキョトンとした目でバケモンを見ている。

「いやーあの、パー子って誰の事か…」
「やぁねパー子ったら!折角だもの、今晩彼女さんと一緒にお店いらっしゃいよ!」

行くかボケェェエエエ!!あんなバケモンの巣窟にユキを連れていける訳ねーだろうが!

「行くよアゴ美、パー子もまたね。」
「アズ美だってば…って、待ってよママ!じゃあねパー子!デート頑張りなさいよ!」

ファイトッと言ってガッツポーズをしてみせるアゴに頭の血管がプチッと何本か切れた気がした。ユキは律儀に頭を下げてるし。

「あー、あのな?今のバケモ…オッサ……人達はだな、」
「楽しい人達ですね。」
「へ?」
「坂田さん顔広いんですねー。さっきから道行く人が声掛けてくじゃないですか。」
「え、あ、あー。万事屋だからっつーのもあるけど、俺も住んで長いからな。」
「私なかなか知り合いが出来なくて。だから羨ましいです。」

カマだとかオッサンだとかそんな事関係無いみたいに、本当に屈託無く笑うから。気恥ずかしくなって頬を掻く。

「あー、そろそろ飯行くか。」
「はい。」

洒落た洋食屋に行こうと思っていたけどこりゃあ予定変更だな。頭の中で定食屋を幾つか思い浮かべる。折角案内してんだ。女一人じゃ入りにくい定食屋とかにしよう。そういえばあそこは若いねーちゃんが看板娘だったような。そうだ、近いうちウチのガキ共を連れて行くか。
そんな事をつらつらと考えながら、物珍しそうにキョロキョロしているユキの頭にポンと手を置いた。



ギャグになってますかね?リクありがとうございました。