「プール、ですかィ?」
「はい。」

俺は今、夢を見てるんですかねィ。
夕方過ぎ、私服に着替えて甘味処に行くとユキさんが笑って迎えてくれた。そんな些細なことに気分を上昇させながら団子を頼んで数分後。ユキさんとの会話が上記の通り。

「ぷ、ぷぷぷプールですかィ?」
「なんか大将が知り合いに貰ったらしくて。まさちゃんと行こうかと思ったんですけど、そうもいかなくて。」

チケットを渡され、震える手で受け取る。文字を読もうにも震えて読めねえ。ふぅ、と溜め息を吐くユキさんにほんの少し肩が跳ねる。

「カップル限定なんですって。」
「かっっ…!!?」
「あ、駄目なら無理しないで言って下さいね。私も折角貰ったから、と思っているだけなので。」
「だ、駄目じゃありやせん!是非っ行きやしょう!」

や、やっべぇぇええ!言ってから気付いたけど、これがっつき過ぎてねえか?あー顔は真っ赤だろうし、力説しちまったし。ユキさん引いてるかもしんねぇ。

「ありがとうございます。それじゃあ、いつにしましょうか。」

ユキさんは俺の思春期真っ盛りの感情を、寛大な心で笑って流してくれた。やっぱ18の俺なんかよりもずっと大人ですねィ。俺もユキさんが頼れるような大人の男を目指しやす。
取り敢えず目先の目標はプールで本能のまま暴走しない事でィ。


────
箪笥の奥から引っ張り出してきた水着に首を傾げる。柄、変じゃないだろうか。でも売店で打ってたやつは絶対ぇ嫌だし。
最後に鏡を見て髪をほんの少し整えてから更衣室を出る。女の準備は時間がかかるんですよねィ?よーし、もう一度予行演習でィ。
えーと、まずは…

「沖田さん、お待たせしました。」
「っっ!」

早ぇえええ!!誰でィ女の準備に時間がかかるなんて言った奴はァァアア!!ちょ、まだ心の準備出来てないんですけど。すーはーすーはー。よし、ゆっくりと振り返りやすぜィ。

「は、早かったですねィユキさ…っ!!!」
「そうですか?なら良かった。結構広いですねー、ウォータースライダーもあるし。取り敢えず入りましょうか。」
「っは、はい!」

ちくしょう可愛いっっ!普段着物だから見える素肌なんて本当に少し。だから水着っつーのは刺激が強すぎるかもしれねぇ。だって腕が、鎖骨が、腹が、太ももが。普段見えない位置の肌が完全に露出しているんですぜィ?
ばっと口元に手を当てる。あー俺今日死ぬかもしれねぇ。出血多量で。

「あっ、あのユキさん!」
「はい?」

足を進めていたユキさんの手を取ると、彼女は振り返る。それだけの動作にドギマギして狼狽えながらも言葉を紡ぐ。

「あの、その、…似合ってやす!」
「!…ありがとうございます。」

少し恥ずかしそうに笑うユキさんにズキューンと心臓を撃ち抜かれる。
うわ、俺色白いとか貧弱みてぇに思われてねぇですかねィ。そりゃ鍛えてはいるけれど、近藤さんと比べたら貧弱だし。…き、聞くのも変ですよねィ。
流れるプールで取り敢えず半周。水に濡れたユキさんはそりゃもう文句なく色っぽくて。久し振りだとはしゃぐ彼女にだらしなく頬が緩む。

「沖田さん沖田さん」
「──っ!!」

ピトッと腕に触れられて肩が跳ねるが、そんな事気にもしないでユキさんは数回ペトペトと触って呼んでくる。

「ウォータースライダー行きませんか?」

小さく指差す先にはウォータースライダー。水から上がって其方を目指すと見えてきた浮き輪。え、何これ。二人用ってこんななんですかィ?滑ってきたカップルを見ると前に女、後ろに男が座っていて、女は包み込まれるように脚の間に……え?

滑ると危ないので俺が階段で後ろを登る。ワクワクと時折下を眺めて振り返るユキさんにドキドキしながらも前を直視出来ない現状。いや、目の前にユキさんの下半身は凶器でさァ。
最上階に着いた俺達は係員に促されて浮き輪に座る。うわ、思った以上に近い。自然と触れるユキさんの体と俺の脚。濡れた髪が背中に張り付き、色の白い背中が目の前に。

「なんか緊張してきました。」
「…俺もでさァ。」

別の意味で。

係員に押されて急降下する浮き輪。チューブの中を水と一緒に流れながらも考える事は別の事で。
いやいや、俺は狼にはなりやせん。いや、なるときはなるけど、今はその時じゃないってことでさァ。
急に開けた視界に目を細めると同時に水しぶき。熱くなっていた頭が冷えされた気がする。浮き輪から降りたユキさんがニコニコと笑って言った。

「楽しかったですね!後でもう一回行きましょう!」

無邪気に笑うユキさんにノーとは勿論言えなくて。まだまだ1日は始まったばかり。頑張れ俺、と自分を励ましてユキさんの手を引いた。




甘というよりもギャグになってしまいました。すみません。
プールのアイデア使わせて頂きました。ありがとうございます。