※三万打企画『君とデート』と同設定。


神楽Side

「銀ちゃん新八!アレを見るネ!」
「あー?んだよ。」
「どうしたの神楽ちゃんって…沖田さん?」

指指した先には税金泥棒のドS野郎。何時もなら関わり合いたくないアルが、今日は少し状況が違ったネ。

「何、沖田くん?放っておけって。お前らが暴れ始めたらタイムセール間に合わねーぞ。」
「あ、でも見て下さいよ銀さん。女の人と歩いてますよ?」
「女ぁ?」

そう。ドSは珍しく女連れだったアル。普段は一人寂しくか、ムサい男と一緒かだったのに。そんな見慣れない姿にニヤニヤとする。

「見に行くネ銀ちゃん。どんなドM女か見てみたいアル!」
「止めときなって神楽ちゃん。」

新八は止めるだろうと思っていたけれど、銀ちゃんならのってくれる、そう思っていたのに銀ちゃんはチラリとドSに目を向けてから溜め息を吐いた。

「そうだぞー止めとけ。」
「ええ!?なんでヨ銀ちゃん!」
「あれは駄目だ。触らぬ神に祟りなしだ。」
「ほらね、銀さんもこう言ってるし行くよ神楽ちゃん。」
「この軟弱者共がァァアア!そんなにタイムセールが大事アルか!?そんなにドSが恐いアルか!?そんな子に育てた覚えはないネ!!」
「育てられた覚えもねーよ。」
「あっ、タイムセールそろそろ始まっちゃうよ!急ぎましょう銀さん。」
「おー」
「嫌アル!私だけでも行くネ!…ほあちゃぁぁぁああ!!」
「あっ、神楽ちゃん!」
「ったく、新八先行っとけ。」
「あ、はい。」


銀時Side

「ほあちゃぁぁぁああ!!」
「げっ、チャイナ!」

勢い良く蹴りを入れた神楽に、沖田くんは隣に居た例のおじょーさんを抱き上げて避ける。砂煙が辺りに舞い上がり、地響きが起こった。

「危ねえじゃねぇかチャイナ!」
「ふん、女連れてるからっていい気になるんじゃねーぞ。プププ、女一人守れないなんて税金泥棒も大したことないアルな。」
「んだとこのヤロ……っ」

突然動きを止めた沖田くんに首を傾げる。よく見ると抱き締めた形になっていたおじょーさんが小さく身じろぎしたようだ。沖田くんは視線を落として、顔を真っ赤にさせた。あ、こりゃ駄目だ。

「ユキさん、大丈夫ですかィ?」
「あ、はい。少しビックリしただけです。」
「そ、そうですかィ?…あ、わわわっ!すいやせん!だ、抱き締めたりしてっ…!」
「いえ、助けて下さってありがとうございます。」
「うあ、い、いえ…」

…甘ぁぁぁああい!!!赤面しているのは沖田くんだけだが、なんだこの空気!!甘いもの好きな銀さんでも胸焼けしてきた。ほら神楽空気じゃん。

「だから言っただろ?タイムセール行くぞ。」
「オエェェェエエ!何アルかアイツ!キモいアル!吐き気してきたネ!」
「あ、坂田さん。」
「あ?あー、よう。久し振りだなおじょーさん。」
「久し振りって、ほぼ毎日会ってますよ?」

クスクスと笑うおじょーさんに冷や汗。沖田くんが凄ぇ形相で睨んできているからだ。つーか毎日?俺が毎日のように通うとこってどこだ?

「旦那ァ。お久しぶりでさァ。」

目は口ほどにモノを言うとはよく言ったものだ。表面上は笑顔だが、目だけが語っている。また邪魔しやがって、と。

「か、神楽行くぞー。タイムセール終わっちま…」
「おねーさんはドMアルか?」

何やってんのお前ェェェエエ!!?

「へ?あ、いや、どうだろう。」
「そんなんで大丈夫アルか?こんなドSヤローの相手なんて…むがっ!!」
「何やってんだ神楽ァァアア!行くっつってんだろーが!また三食豆パンになるぞ!」
「何するネ銀ちゃん!この人騙されてるアル!同じ女として見過ごせないネ!」
「いーから!そういう変な正義感今はいらねーから!じゃーな沖田くん!」

離すアル銀ちゃん!と叫ぶ神楽を引きずって沖田くん達から離れる。神楽も諦め始めた頃に聞こえてきた会話に以前も感じたなんともいえない気分になる。

「あ、あのっ!さっき言ってた事、気にしないで下せぇ!」
「へ?あ、はい。」
「アイツまだガキだから、思った事そのまま話す奴で…」
「いえ、なんだか安心しました。」
「安心、ですかィ?」
「ええ。沖田さんって普段から大人っぽいので。さっきはなんだか年相応って感じでした。」
「は、はあ…」
「なんか、沖田さんの事一つ知れた気がします。」
「!!」

どうもあの子には都合の悪い所は映らないらしい。いや、映ってもそれを包み込む度量があるのかもしれないが。取り敢えず沖田くんが彼女と居る時に関わるのは止めるよう、神楽にも新八にも言い聞かせようと心に決めた。



────

山崎Side

「あれ、沖田隊長じゃないですか。」

いつも通り副長の言い付けでマヨネーズを買った帰りの事だ。非番の沖田隊長を見かけ、声をかけた。すると隊長はほんの少し眉だけをしかめた。

「…山崎」
「?どうしたんですかこんな所で。今日隊長非番でしたよね…って、あ。」
「こんにちは。」

周りに人が居て気付かなかったけれど、隊長は一人ではなく、女の子を連れていた。今時の子(とっつぁんの娘)みたいに丈の短い着物を着ているような子ではない。目はパッチリとしていて自然な化粧。髪は緩く巻かれていて、可愛らしい印象だ。
けれど、どう見ても普通の子。ドSの隊長にはどうも不向きだろうって、あれ?

「こんにちは。えーと…もしかして吉田さん?」
「あ、はい。」
「!」

やっぱり。化粧が女を変えるのは知っていたけれど、これはまた驚いた。今度女装の仕事があったら習おうかな。というか隊長が凄い驚いてる?一瞬だったけど目が見開いた。そんなに俺に女の子の知り合いが居るのって意外なのかな?

プルルル、プルルル

「うわっやべ、副長から電話だ。そんじゃ吉田さん、隊長、失礼します!」
「…ああ。」
「頑張って下さい。」

片手をあげる隊長に首を傾げながらその場を離れる。角を曲がった所でふと足を止めた。

「しまった、レシート貰うの忘れた。」

立て替えたままなんて御免だ。副長の催促もうるさいけど急いで戻ろうと踵を返した時、隊長の声が聞こえて再び足を止める。

「ユキさん、山崎とお知り合いで?」
「えーと、スーパーでよく会うんです。」
「へぇ…」

一瞬、ほんの一瞬隊長の目つきが鋭くなり、口元に笑みが浮かんだ。あ、これ死んだ。俺死んだ。

「沖田さんは山崎さんの上司なんですよね?」
「一応、そうですねィ。でも真選組の中では割と歳も近いんで、部下というよりは…」

目を伏せる隊長に冷や汗が流れる。何その顔。
口元には優しい笑みを浮かべ、ハニーフェイスを最大限に生かしてフワッと微笑んだ。

「馬鹿やれる友って感じでさァ。」

どこがァァアア!?思いっきり上司の権限乱用するでしょうがァァァア!!馬鹿やれるって一方的にでしょうがァァァア!俺から沖田隊長に馬鹿やるなんて自殺行為に等しいんだけど!
っていうか友って何!?隊長そんな風に思ってたの!?…いや絶対思ってないよね!!

「そうなんですか。仲良いんですね。」
「、はい。」

えええ、何これ。俺見ちゃいけないもの見ちゃった感じ?ミツバさんの時みたいに笑えないんだけど。冷や汗ハンパない。
副長からの催促の電話が再びかかってきたけれど、俺は暫くその場を動く事が出来なかった。