小さな変化

 棗Side

すぴーすぴー。

授業を抜け出して北の森に来てみると、木の上にバカみたいに眠っている吉田を見つけた。
こいつが来て1週間が経った。鳴海の先輩で、母さんの親友。タイムトリップのアリスは制御出来るものではないらしく、アリスを使う度に身体年齢が変化してしまうらしい。見た目は同じくらいでも、中身は随分と大人ということだ。
いつもバカみたいにヘラヘラし、授業では寝ているか椅子の上で胡座を組んで目を閉じているかのどちらかだ。
よく分からない奴。これが吉田の印象だった。





それにしても、こいつはさっきまで教室に居たはずではないか。水玉に絡まれてヘラヘラ笑っていた。いつの間に抜け出し、俺よりも先にこの場所にたどり着いたんだろうか。

「ん、んー?」

目が覚めたらしく、寝転んだまま腕を伸ばして欠伸をしようとした次の瞬間、グラリと身体が傾いた。
落ちる−…!
咄嗟に受け止めようとして真下に足を走らせた。
しかし、吉田は落ちることなく、片手で木にぶら下がり、勢いをつけて少し離れた場所に飛び降りた。

「はーっ、ビビった。マジでビビった。」

珍しく驚いた顔をした吉田を見て、無意識に止めていたらしい息を吐き出す。

「棗ちゃんだー。受け止めようとしてくれてあんがと。」

ほんの一瞬のことだったのにコイツは気付いていたらしい。少し気まずくて木の幹に座り込む。

「…お前、サボりかよ。」

「いや?授業受けてるよー。」

「…は?」

コイツは時々、いやしょっちゅう訳が分からないことを言う。現にコイツは此処にいて、教室には居ないのに。

「あれ?馨ちゃんから聞いてないんだ?わたし忍者だからさ。」

「…は?」

母さんから?忍者?
吉田が手を複雑に組むと、独特な音を出して、もう一人吉田が現れた。

「…アリスか。」

「んー、違う違う。これは忍術。似たようなもんだけど違うものだよ。」

忍術?

「私の居た世界では、チャクラっていう精神エネルギーを使って、火や水を出して忍者やってたのさ。分身の術は結構有名じゃない?チャクラがない人も居たけれど、やっぱり不利なことも多くて、必要不可欠なものだったのさ。」

だから珍しいものじゃないんだよー。といつもの顔でヘラヘラ笑った。

「…世界…」

訳の分からない単語の中から、特に引っ掛かった単語を拾う。
世界、セカイ?

「…あんまり驚かないんだね。」

いつもの顔とは少し違う、鋭さを含んだ目が向けられる。

「…過去や未来に行くアリスがあるくらいだ。世界を渡れても可笑しくはないだろ。」

鋭い雰囲気から一転、吉田はふんわりと穏やかに微笑んだ。

「流石、馨ちゃんの自慢の息子だ。」

これが本来の吉田なのだろうか。気恥ずかしくなって、下を向く。

「…こんな簡単に教えていいのかよ。」

「一応、結界が張ってある。」

初等部校長とか面倒だし、と言ってヘラリと笑う。いつの間に、全然気付かなかった。

「術の幾つかはナルちゃんとか信用出来る人に教えてあるけど、異世界のことまで知ってるのは馨ちゃんだけなんだよ。」

棗ちゃんで二人目だ。そう言って眩しそうに笑う。
吉田はどれ程の物をその小さな身体に抱えているんだろう。
ほんの少しでも、コイツの心を軽くすることが出来たなら。
…俺にも、出来ることがあるのなら。

「棗ちゃん?」

「…棗。」

「へ?」

「ちゃん付けするな、呼び捨てで呼べ。」

「え?」

立ち上がって、吉田に背を向けて歩き出す。

「もうそんなガキじゃねーんだよ。……ユキ。」

答えを聞かずに立ち去ってしまった棗を、後ろから見つめる。ほんの少しだけ染まった頬を隠すように下を向いて呟く。

「…まだまだガキじゃねーか。」




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学アリの続編。
棗視点で主人公の印象。
主人公はオールマイティな上忍。医療忍術も一通り使える。