◎柚香ちゃんと私
「ちょ、柚香ちゃんもう良いって。お腹(?)一杯だって。」
「いやでも面白いんですもん。ほら、あれですよ。練習にもなるし!」
「……なにやってんの二人とも。」
放課後の特力の教室。
高等部の生徒と中等部、初等部の生徒が一緒に居れる人目に付かない場所というのは限られているため、先輩が好んで訪れるのがこの教室だった。もともと特力は人数が少ない上、担当教師は行平先生だし。
だから、授業が終わると私は大抵此処に来るんだ。
「ナルちゃん」
「ナル良いところに!アリスストーン頂戴!」
「は?なに不躾に。というかどういう状況なワケ?」
ソファに寝転がった先輩とその傍らに座る私。その様子を見ながらナルは近くの椅子を引き寄せて、背を正面に座った。すると先輩は疲れた顔で話し始めた。
「前に私のアリスは盗れないって話したでしょー?」
「あぁ。そんな事も言ってたね。」
「だから、逆に入れる事は出来るのかな〜って思ってやってみたら、ドンドン入るもんだから楽しくなってきちゃって!」
だからアリスストーン頂戴っ!とナルに向かって手を出す。けれどナルは呆れた表情のまま小さく溜め息を吐いた。
「…因みに今は何のアリスが入ってるわけ?」
「えーっと…なに入れましたっけ。」
「柚香ちゃんは無責任だねぇ。最初はユッキーのアリスだったよ。」
「あ、そうでした。それから…」
無効化に始まり、次々とアリスの名前をあげる。よくそんな量を集めれたなと我ながら感心する。
「…で、さっきは私の瞬間移動のアリスを入れたところなの!持っていたアリスストーン無くなっちゃったから、ナルのアリスストーン分けてよ!」
「もういいってー。飽きた。」
「でもアリスストーン入ってると便利ですよ?ナルのフェロモンとか面白いと思いますけど。」
「そんなアリス無くても私は魅力たっぷりだからさぁー。」
「…それ自分で言っちゃう?」
ソファに俯せに寝転がったまま怠そうに呟く先輩。ナルは半目で見つめる。
「大体私はタンスじゃないんだよー。」
「いやでも本当に困ってたんですよ。もう隠すのが大変なくらい。」
以前先輩に言われて、任務の時は自分用にもアリスストーンを盗るようにしていた。残り少ないアリスを盗るのだから、校長に渡す分と分けて盗ると、当然大きさは小さくなってしまうのだけれど。それでも数が凄いことになっていたのだ。それこそ、自室にある棚の引き出し一段が埋まってしまうほど。
「暫くは預かっててもいいけど、代わりのタンス見つけてねー。」
「先輩ほどアリスが入る人なんて居ないと思いますけど。」
「居る居る。大丈夫大丈夫。」
根拠も無いのに当然のように言う先輩。先輩の”代わり”なんて居ないのに。
任務で盗ってくるアリスはやはり珍しいものだったり、危険なものだったりする。だからこそ、なんの危機感もなく預ける事が出来るのは、先輩だけなのに。
「あー、このアリス一杯状態の私を見たら一巳さんビックリするんだろうなー。…それはそれで面白そうだ。」
その時の先輩は悪戯をする前のような顔をしていた。そんな先輩を見てナルと顔を見合わせてくすりと笑った。