◎蜜柑と私
ナルSide
今井さんに部屋を追い出され、クラスメートにも見放された(飛田くんは最後まで頑張っていた)らしい蜜柑ちゃんは、静かに手元の本に視線を落としている先輩に声をかけ続けていた。
「なー」
「…」
「なーなー」
「……」
「なーなーなー」
試験前日。各々が談話室なり自室なりで勉強をしているであろう夕食後の事だ。
先輩の部屋に訪れていた僕は、突然の来訪者である蜜柑ちゃんから隠れるようにトイレへと駆け込んだ。いやほら。流石に生徒の部屋に二人きりってのはバレたら大惨事だろうから。試験前日だし。勿論それ以外でも。
取り敢えず隠れた僕は息を潜めていた訳だけど、聞こえてくる会話にクスリと笑った。
「はぁ、仕方ないなー。何処が分かんないの。」
ぱぁぁぁあっと声を明るくする蜜柑ちゃん。その声に柚香先輩が重なって。
「えっと、えっとなぁ、全部!」
「…は?」
「あんな、どこが分からんか分からんねん!」
少し扉を開けて見ると、流石の先輩も固まり、あちゃーと額に手を当てていた。それにしても明日から試験なのに大丈夫なんだろうか蜜柑ちゃんは。
先輩が溜め息を吐いて教科書とノートを開かせる。ゆっくりと一つ一つ理解させるように、範囲を絞りに絞って教えていく。その姿があの頃に重なって。
「君はなんというか…ホントそっくりだよー。」
「?何がや?」
「ほら出来た?」
「ちょ、ちょお待って!」
時間にして30分ほど経っただろうか。
隠れた手前、下手に出ることも出来ず居ると先輩がチラリと此方に視線を向け、ベッドに寝転んだ。
「もー無理。飽きたわー。」
「ちょっ寝んといてー!」
ベッドに寝転んだ先輩の上に縋るように覆い被さる蜜柑ちゃん。その時扉がノックされ、ガチャリと扉が開いた。蜜柑ちゃんは気付いていないみたいだ。
「開けるわよ。」
「此処に蜜柑ちゃん来てないかな…!?」
扉の前は蜜柑ちゃんを探しに来たであろう今井さんと飛田くん、先輩に用があったであろう棗くんと付き添いのルカくんが居て。
「え?あ、蛍?」
「み、蜜柑ちゃん…」
「あんた…」
「佐倉…」
「…」
「え?え?何?」
よく状況が理解出来ていない蜜柑ちゃん。身体を起こしてベッドに座ると、先輩は顔を伏せて肩を震わせた。
「ぐすっ……怖かった…!」
「「「「……」」」」
「なっなに言うてんねんアンター!?」
涙を浮かべた先輩を見て、冷たい視線が蜜柑ちゃんに突き刺さる。部屋の隅で問い詰められる蜜柑ちゃんを見ながらそっとトイレから出て先輩の隣に立った。
「いやぁ、ホント蜜柑はそっくりだねー。」
「…因みに今のをどっちにやったんですか?」
「当然ユッキーだよー。」
ぐっと親指を立てる先輩に冷や汗。…ホント洒落になんないよ先輩。