不意に意識が浮上し、目を開ける。ぼんやりとする意識を、ズキンと痛む後頭部の痛みがハッキリとさせてくれた。ちっ、どうやら厄介な事になったらしいな。手首を後ろできつく縛られ、足首も縛られているようだ。
俺としたことが、ジローの誘拐現場に居合わせ、頭に血が上ってしまったらしい。周りを確認すると相変わらず寝たままのジローと忍足、忍足も捕まっちまったのか。そして…吉田。吉田?
なんで吉田がいる。巻き込まれちまったのか。クロロホルムとかの薬品は即効性は無いと聞いていたのに、腹を思いっきり殴られたことで意識が少しとんで、そのまま眠ってしまったらしい。忍足に叫んだところぐらいまでしか覚えていない。
「くそっ。」
「跡部様…?」
「!吉田、大丈夫か?」
「う、うん。なんとか…」
誘拐した奴らは近くに居ないようなので、身体を起こす。どうやら此処は何処かの倉庫の一部屋らしい。コンクリートで出来た、殺風景な部屋。広い部屋だが、隅に置かれた物に埃が被っているのを見ると随分使われていないようだ。部活の時だったから携帯は持ってねーし、どれだけの人間が誘拐と気付くことができるか…。
「あ、あのね。跡部くんと忍足くんは殴られて気を失ってたけれど、私だけ殴られなかったの。騒ぐとこ、殺すって言われただけで、ずっと起きてたんだ。」
それはそれで怖かっただろうな、なんて震える体を見て思う。
「すまねぇ、巻き込んじまって。」
昔から、跡部財閥の息子ということで狙われる事が多々あった。だから送り迎えは基本車だし、外に出るときは大抵樺地が一緒にいる。携帯にはGPSが付いているし、遅くなるときは使用人の誰かに連絡をする。そんな生活が当たり前で、別にそれを悲観したことはなかった。けれど、こうやって俺のせいで巻き込んだりしたとき、それをどうしようもなく思うのも事実だ。
「ち、ちがうよっ!」
「!」
「犯人たちが話しているの、聞いたの。ひ、氷帝の生徒なら誰でも良かったんだって。氷帝の生徒は基本お金持ちだから…。芥川くんの事はよく寝ているの知ってたらしくて、だから狙ったんだって。」
だから、跡部くんのせいじゃないよ!と意気込む吉田に目を見張り、思わず吹き出した。
「くくっ、ありがとな。」
かああぁぁっと顔を赤くする吉田に柄にもなく微笑ましく思い、笑みがこぼれた。
「う…、」
「!忍足、大丈夫か?」
「跡部…?…!そや、俺…」
「ああ。どうやら俺達は誘拐されたらしい。」
「!…そか。誰も怪我ないか?吉田さんも。」
「だっ、大丈夫!」
「ああ。殴られた腹は痛いけどな。」
「それは俺もや。」
苦笑する忍足に少し安心する。今は寝ているが、ジローもいる。現役高校生の男が三人もいるんだ。なんとかなるかもしれねー。
「あ、の。私ね、携帯を落としてきたの。」
「あぁ、俺も持ってないぜ。」
「せやな、部活中やったし、俺もや。」
「そ、そうじゃなくて私怖くて動けなくて、でも進行方向に隠れてたから絶対見つかるって思って。怖くて声は出せなかったんだけど、せめてメールでもと思って。」
恐怖が戻ってきたようで、再び体を震わす吉田。それでも一生懸命に伝えようとしてくれるコイツに真剣に耳を傾ける。
「手が震えちゃって途中までしか書けなくて、誰にも送信出来なかったんだけど、車のナンバーとか書いてたから、せめて見つからないようにって茂みに隠してきたの。」
だから、その携帯を誰かが見つけてくれたら。と語尾を小さくしながら話す吉田。可能性としては薄い。けれど、テニス部の奴らとか清掃員とか家の使用人とかが見つけてくれるかもしれない。
「あの状況でよくそこまで出来たなぁ、凄いわ。俺なんかすぐに捕まってしもたのに。」
「ああ、よくやったぜ。これで助けが来る可能性が格段に増えたはずだ。」
「そ、そっかな。」
そうだ、まだ終わっちゃいねー。此処から、全員無傷で出るまでは。
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