コンコンと扉が叩かれ、ノブが周り、扉が開く。そして軽快な声と、朗らかな笑顔を浮かべて一人の男子生徒が入って来た。

「しっつれいしまーす。」
「あーん?」

誰だ?俺はこの学園の生徒全ての顔を覚えているが、こんな奴は見たことがない。ったく、この学園のセキュリティーを見直す必要があるな。

「誰だテメェは。」
「まぁまぁ跡部、そないに邪険にせえへんでも。」
「それは出来ねえな。俺様はお前を知らない。」
「…ということはつまり、」
「テメェは、この学園の生徒じゃねえ。」
「!」

先日の事もあってか少し警戒を含んだ目で睨む。しかし奴はそんな視線ものともせずにニコニコしている。

「えぇ?誰って…、会長が呼んだんだろー。」
「あーん?」
「どういう事や?」
「コレ、なーんだ?」

ニヤリと笑った男に違和感。この感じ何処かで…というかそれは…。

「…なんでそれをテメェが持ってやがる。」

見せてきた”ソレ”は先ほど俺が吉田に渡した紙だった。

「跡部、あれって…」
「あぁ。俺が吉田に渡したやつだ。つーことはテメェは吉田の知り合いか。アイツの携帯を回収したのも、今回の事件を解決に導いたのもコイツって訳だ。」
「っちゅうことはコイツが岳人達が言うてた奴かいな。」
「と、いうことだろう。」

だろう?と同意を求めるように男を見れば、ニコリと微笑んだ。

「俺は吉田に話がある。悪いがアイツを呼んでくれねぇか?」
「俺が聞くよ。”俺”は彼女で彼女は”俺”。俺達は一心同体だからさ。」

どういう意味だ?双子…いや、彼女には兄弟はおらず、両親も既に他界している。親戚も考えたが、彼女には父親の兄が居るだけのようだった。ではコイツは誰だ?俺は彼女で彼女は俺?一心同体…?
!同一人物?そうだ、吉田は俺の常識で考えたら駄目なんだ。彼女の身体能力も、殺気も、状況判断能力も。全てが俺の知る常識の範囲外なのだ。きっとコイツは、吉田だ。これはインサイトを使った訳ではなく、ただの推測。そして直感。

「わかった。…”俺様”はお前が欲しい。」
「!」
「俺様のモノになれ。」

俺は、俺達は今度こそ全国制覇を成し遂げたい。去年の雪辱を晴らすためにも。

「それ、彼女に利点は?」
「…」
「だってそうだろ?彼女に利点がない。君が得するばかりでは取引は成立しない。」

それは確かにそうだ。けれど跡部財閥の力は無力だろう。それくらい彼女の力は未知数だ。それに、この取引は俺の力で取り付けたい。そんな、今までに感じたことのない感覚。

「跡部財閥の力を使うんなら無駄だぜ?金には動かないし、力付くになろうものなら記憶を消すなんて簡単なんだからな。あの馬鹿な犯人達のように、何も分からなくなる。」

コイツは、吉田は、今までそうやって人と過ごしてきたのだろうか。それは凄く…

「それって凄く悲しい事やない?」

今まで黙っていた忍足が口を開いた。

「自分の事、忘れられるのって辛ない?俺はそないな経験したことないから想像しか出来んけど、忘れられる事前提で人と付き合うていくなんて、そない悲しい事ないわ。」
「それだけ、彼女が異質だということさ。」
「皆と同じ事になんの意味がある。どの業界でも、奇抜な事をやった奴が成功者だ。」
「同じ事が必要な時もあるじゃないか。大衆の意見を纏めた物が一般常識だろ。ルールがあるから団体行動が取れる。学生が一番そういう物に敏感じゃないか。他と違うものは除外する。異質なものははじかれる。」
「そないな奴ばかりやない!」
「それでも、それが常識だ。」
「俺は、俺達はそんなお前だから知りたいと、忘れたくないと思った。」
「ほんの一部を見ただけじゃないか。全てを知る覚悟もないくせに。」
「全てを知る必要なんて無ぇだろ?」

はじかれたように顔をあげるコイツ。ああ、やっぱりコイツは吉田だ。姿形は違っても、コイツの目は吉田と同じだ。

「せやで?俺やって跡部の事全て知っとる訳やない。知っとるとしても本当に一部や。けど仲間やと思っとるし、勘やけど一生ものの付き合いやと思う。」
「腐れ縁だけどな。」
「それも一つの縁や。」
「誰だって相手の何処かに惹かれて一緒に居るんだろう。俺はお前の異質さに惹かれた。お前の強さが欲しいと思った。」

俺と吉田は何処か似ていると思った。俺様は何処へ行っても跡部財閥の御曹司で。大人の世界でも特別視され、子供の世界でも何処か浮いた存在。だから俺自身でいられるテニスが、俺の居場所になったんだ。

「”俺”が興味を持った。それ以外に何が要る?」

だから彼女にも、そんな場所が出来れば良い。その場所が、俺の側ならいいのに。





まだ名前をつけるには未熟過ぎる、ほんの少しの独占欲。