ある日の朝練後のことだ。私は観客席からテニス部をはやし立てていた。そこに一年生だろうか。可愛らしい女の子が景吾に走り寄って行くのを見かけた。
「跡部様!私お弁当作ってきました!」
「ちっ。ジローの奴どこ行きやがったんだ。」
「え、あ、ちょお待ち跡部……すまんなお嬢さん。」
作ってきました!…ってまるで景吾が頼んでたかのようだな。偉いでしょう?ほめてほめて!って感じ。それを無視する景吾も大物だけど。侑士お疲れ。
思わずうわぁと顔をしかめていると、一緒にいたクラスのお姉様方が静かな声で呟いた。
「なあにあの子」
「確かぁ、Cクラスの子だった気がする。」
「どうする?シメちゃう?」
こ、こわー!!!お姉様方こわー!!!どどどどうしよう。このままこの子達見逃す訳にはいかないよね?私も共犯になっちゃうし、何より学園の秩序とかを常日頃考えてる景吾の意志に反するよね。だって私は彼と契約したんだから。
「でもぉ、私なら絶対無理だなぁ〜。」
「え?何が?」
「シメるのがぁ?」
「そうじゃなくてぇ、跡部様に手作りの物なんて絶対渡せないって思ってぇ!」
「なんでよぉ?」
「皆調理実習の時とか持ってくわよねぇ。」
「ええ!すっごぉい!だって、跡部財閥の御子息なんでしょぉ?」
「そうよ?」
「めっちゃ舌肥えてるじゃなぁい!」
「「「……」」」
「私ならそんな相手に手作りの物なんて渡せないよぉ。皆そんなに腕に自信があるんだねぇ。」
「…そういう訳じゃないけど…」
「そうそう。」
「『お前の作ったもんなら美味いに決まってんだろ?』とか言われたいじゃない!多少焦げてても!」
「えー、焦げてるのなんか尚更渡せないでしょ。」
「「「確かに。」」」
夢見る乙女にも常識はあるようで良かった良かった。
「もー、今後調理実習で何か作っても渡せなくなっちゃったじゃなぁい!」
「やっぱり向日くんだよ!なんでも喜んでくれるし!」
「なら芥川くんもオッケーだよね!」
先程お弁当を渡そうとした女子生徒のことはすっかり頭から抜けたらしく、取り敢えずイジメを防ぐことは出来たようだ。良かったビビった。
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