彼女と初対面
「あー、漸く見つけましたよー。」
銀行屋も無事倒し、マギの力を目の当たりにしたその後。各々が一息吐いていたときに響いたダルそうな声に視線をあげた。其処には見慣れない服装にブラウンのエプロンをかけた少女が兵士に近付いていた所だった。
「…ん?ユキか、どうした?」
「どうしたもこうしたもないですよぅ。ご飯の時間なのに誰も来ないから迎えに来てあげたんじゃないですかぁ。」
「ご飯て…、お前なあ、俺達は今まで化け物と戦っていたんだぞ!」
「んなこと知りませんよぅ。私の戦場は厨房なんですからぁ。」
「はぁー。お前にゃ何言っても無駄か…。お陰で涙も引っ込んじまったぜ。」
「なんですかぁ、泣いてたんですかぁ?ぷぷぷ慰めてあげましょうかぁ?」
「なんだコイツ!うっぜ!まじでうっぜ!」
「はいはい、動ける人はサッサと食事しちゃって下さいよぅ。いつまで経っても片付かないんでぇ。」
パンパンと手を叩く彼女に促され、兵士達がゾロゾロと宮廷に入って行く。その異様な光景に見入っていたのと、戦いが終わったという安堵から完全に油断していた俺達は、もう一人のアル・サーメンに気付けなかった。静かに放たれたその火の玉はアリババくんに向かって行く。その場所には丁度面倒臭そうに彼女も立っていて、完全に背中を向けてしまっている。
「──…!!危ないっ!!」
痛む傷を無視して叫ぶと、ボロボロのアリババくんが顔を上げ、目を見開く。アラジンもモルジアナもハッとして身体を動かすが、既に彼らの目の前まで近づいてしまっているソレを止めることは出来ない。
誰もがそう思ったその時、彼女が後ろでに手を挙げ、虫を払うかのように火の玉をペイッと払った。その火の玉はそのまま魔法を放ったアル・サーメンに倍のスピードで戻っていき、そのまま奴を倒した。…え?
「「「「「ええええぇぇぇぇぇえ!?」」」」」
払った?いや、跳ね返した?素手で?
「ん?早く食べちゃって下さいよぅ。皆さんが食べ終わらないと私の仕事終わらないんですからー。あ、動けない人達何処ですか?」
「あ、あっち…」
「はいはーい。あら、いっぱいいますねぇ。早く食べちゃってくれませんかぁ?」
「いやいやいや、無理だから。俺達重傷…え?」
負傷者の傷口に手を当てるとその部分が光り出し、あっという間に傷を塞いでしまった。
「これで全員ですねぇ?はい、皆さん早く食べちゃって下さい。私この後昼寝したいんでぇ。」
もう歩くこともままならない程の傷を負った者や、数時間後には息を引き取りそうなくらい弱っていた者もいた。各々治るのに相当時間がかかると思われたその傷を、彼女はこの短時間で塞いでしまった。
「ちょっとー、いつまで寝てるんですかぁ。」
あまりの出来事に頭が着いていかずにいると、彼女は血を流し過ぎて気絶をしている兵士の胸ぐらを掴み、ベチベチと頬を叩いていた。
「ちょ、…やめてあげてぇぇぇえ!!?今さっきまでその人死にかけてたから!」
「だって食事は兵士全員分あるんですぅ。無くならないと私の仕事終わらないんですよぉ。」
「いや、でも、お、俺達が食うから!だから彼らを安静に…!」
すると彼女は兵士から手を離し(頭がゴンッていった)、振り向いた。
「ふーん…。まぁ、それでもいいか。じゃあ食堂まで早く来て下さいねぇ。」
俺達を一瞥して、彼女は颯爽と宮廷内に戻って行った。
「…アリババくん、彼女は一体…」
「…、俺もよくは知らないんですけど、俺がこの国を出る少し前に来て、宮廷内にいる人全ての食事を彼女が任されているんです。」
「それにしても…魔法を跳ね返した事といい、傷を治した事といい…」
転がっている兵士達の荒かった息はすっかり落ち着きを取り戻し、今や穏やかな眠りだ。
「何者なんでしょうか。」
「んー、分からんな。」
「…シン様、何かイヤな予感がするのですが…」
ニヤニヤと笑う俺を見て思わずジャーファルは口元をひきつらせた。
「彼女、ウチに欲しいな…。」
「…はぁー…。」
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