彼女と身分
ニヤニヤとしながらもみ手をするとある国の大臣。下心満載のその笑みに、表情には出さないがイラッとする。
まあ、彼がこの国に訪れた理由は簡単だ。我が国、シンドリアと手を結びたいという事だった。しかし彼らの国は実際のところ余り評判が良くない。物価が高く、税金も高い。輸出する物品も価格のわりに質が悪く、あまり輸入をしないため自国の財政を潤すばかり。貧富の差が激しく、王族、貴族が中心の国。ついこの間までのバルバッドみたいだ。しかもその情勢が何十年も続いているのだから頭の痛い話だ。

「取り敢えず今夜はもう遅い。長旅でお疲れだろう。部屋を用意させたので休むといい。」
「お心遣い感謝致します。では、御言葉に甘えさせて頂きます。」
「ジャーファル。」
「はい、御案内致します。此方へどうぞ。」

漸く終わったと息を吐き出したその時、扉をノックする音が聞こえ、反射的に気を引き締める。扉が開き、顔を出した主を見て再び息を吐く。

「なんだ、ユキか。どうした?」
「えーとぉ、調味料が足りないんで街に行こうかと思ってるんですけどぉ、何か居るものあるかと思ってぇ。」
「おーそうかそうか。ワザワザすまんな。よし、俺も行こう。」
「は?ちょ、シンドバッド王!?」
「お、そうだ。大臣殿、此方は我が王宮のコックだ。彼女の作る料理は格別ですよ。」
「ほお、それは楽しみですね。主、名をなんと申す。」
「…」
「ユキ、アナタの事ですよ。」
「ん?何ですかぁジャーファルくん。」
「いや、だから…」
「なんと無礼な。シンドバッド王よ、不躾ながら、彼女のような者を何故雇いになっておられるのですか?これではこの国の名に泥を塗るようなもの。そうだ!我が国のコックを紹介しましょう。料理の腕もさることながら生まれも育ちも良い。如何ですかな?」

自然と眉間に皺が寄る。確かにユキの態度は良くなかっただろうが其処まで言うか?彼女は俺が無理を言ってシンドリアまで連れてきたのだ。生まれも育ちもよく分からないが、それでも俺達は信頼している。仲間を馬鹿にされてイラつき、口を出そうとしたその時、ユキが大臣のほうを見た。

「う、なん…ぶっ。」
「ユキ!?」

突然大臣の顔を片手でガチッと掴んだ。

「な、何をするのだ!?」
「き、貴様っ!!」

横に居た兵士が槍を構え、ユキを威嚇するがユキへ相変わらずの無表情で静かに大臣を眺めていた。微量だが、殺気も出しているらしい。

「無礼はどっちですかぁ。私の身分も知らずによくそんな口が叩けますねぇ。」
「なっ!?」
「私がどっかのお姫様だったらどうするんですかぁ?」
「!?」

え?いや、違うだろ?

「あーあ、ご愁傷様。背後にはお気を付けてー。」
「…」
「えー?なんですかぁ?聞こえなぁい。」
「す、すみませんでした…。」
「はっ。」

鼻で笑った彼女はボトリと大臣を落とし、再びコッチを見た。ジャーファルはため息を吐きながら近くにいた兵士を呼び寄せて大臣を部屋に運ばせる。部屋に俺とジャーファル、ユキの三人になったことを確認してから俺もため息を吐いた。

「お前なぁ…。」
「?」

コテンと首を傾げるユキ。ホント、最初も思ったが、何処にさっきのような力があるのか甚だ疑問だ。

「ユキ、なんであの様なことをしたのですか。」
「…うざかったから?」
「〜…、だからユキがあのようなことをしなくても私が…!」

バッと口を塞ぎ、目線をキョロキョロしながら顔を俯く。いやー、なんか俺空気じゃないか?

「あーごほんっ。」
「!」
「ん?じゃー行きますかぁ。ジャーファルさん行ってきまぁす。」
「あ、ユキ。ちゃんとシンを連れ帰って来て下さいね?」
「ええ?途中で居なくなるんですもん。知りませんよぉ。」
「ひどい!ユキひどいぞ!」
「ユキ、ちゃんと連れ帰ってきたらお茶にしましょう。」
「んん、分かりましたぁ。手間掛けさせないで下さいねぇ、シンさん。」
「…はい。」

2人してまったく、俺を何だと思っているんだか。はぁ、とため息を一つ吐いてユキの後を追った。
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