彼女と深夜
三日月が輝く夜遅く。ジャーファルはとある部屋で未だに終わる兆しの見えない書類の山に埋もれながら、蝋燭の灯りを頼りに黙々とペンを動かしていた。

コンコン

「、はい。」
「お邪魔しまぁす。」
「ユキ。」

扉を開けて入ってきたのはコックのユキだった。こうしてユキが仕事の途中でお茶を持ってくるのは今日が初めてではない。
普段も書類処理に追われているというのに、バルバットに行っている間に更に溜まってしまった分を処理するのはとても骨の折れる事であった。勿論文官達は私達が居ない間も頑張っていたのだが、私やシンにしか出来ないものも多く、必然的に溜まった状態となってしまっているのだ。

「お疲れ様ですぅ。休憩も兼ねてお茶をお持ちしましたぁ。」
「あぁ、ありがとうございます。もうそんな時間なんですね。」

キリをつけてペンを置き、ソファに移動する。ユキがローテーブルにコトリとお盆ごと置き、ちょこんと横に座った。
シンドリアに帰ってから度々徹夜をしているわけだが、その度に彼女はこうしてお茶と少しの食事を持って部屋を訪れるのだ。

「これはサンドイッチって言うんですぅ。」
「さんどいっち?」
「その昔、サンドウィッチ伯爵がトランプゲームをやりながら片手で食事が出来るようにパンに具を挟んだものを作らせたとかなんとか。忙しいジャーファルさんにはもってこいのお食事ですよぉ。そんなに重くないですしぃ。」
「これでもユキが作るようになってから食事量は増えたんですけどね。ユキの作るものは、何だって美味しいですから。」
「ありがとうございますぅ。」

これはお世辞でも何でもない事実。今まで見たことのない料理を次々と生み出す彼女には毎食、驚かされてばかりだ。
例えばパン。これは他国でも見たことがあるが保存食の役割が大きく、水分の少ない、固いパサパサしたものだった。けれど彼女の作るものはフワフワとしたなかに弾力があり、時にはフルーツや木の実が入ったりしていて飽きがこない。他にも、前シェフではただ並べられていただけのフルーツはゼリーと呼ばれる涼しげで美しいモノに姿を変える。

食事の楽しさを初めて知った。

「美味しい…。」

ふんわりとしたパンに挟まっているのは、みずみずしい葉野菜と酸味のある木の実。香りの強い木屑で燻してある魚に、スッキリとした香りの香草。片手で食べることが可能なこの”さんどいっち”は手軽なのに小腹だけではなく、心まで満たしてくれるようだ。

「明日も早いんですから程々にしてくださいよぉ?」
「ふふ、それはユキもでしょう?」
「私はお昼寝するんで問題無いですぅ。」

でも二人きりで会えるこの僅かな時間が、私にとっては大切なもので。だから時々、時々でいいから。

「ご馳走様でした。」
「お粗末様でしたぁ。」

キミを独り占めさせて。
6/14
prev  next