彼女と実力
バルバットからシンドリアへと帰る船の中にて。家臣のジャーファルは戸惑いを隠さずに眉を下げて言った。マスルールも傍らに立ち、黙って聞いている。
「シン、大丈夫なんですか?」
「ん、何がだ?」
「いえあの…、やはり素性の分からない者に王宮の台所を任せるというのは…。」
「なんだジャーファル。お前はユキの事を疑っているのか?」
「そ、そうじゃありません!ただ私達みたいに誰もが受け入れるとは限らない、という事です!ユキに何かあったら…いえ、彼女がそう簡単にやられるとは思いませんが…」
「なぁに、簡単な事だ。」
眷属器や魔法道具に頼っている我々では、彼女を倒す事なんて出来ない。なんたって彼女にルフを利用した攻撃は効かないのだから。
逆にユキの不思議な術や並外れた体術は俺達に効く。食事に毒など仕込まなくても、シンドリアを滅ぼそうとしたら彼女には容易な事だろう。
その圧倒的な強さを、分からせればいいだけだ。
────
シンドバッド一行がシンドリアに着いてから数日後。銀蠍塔に呼ばれたシャルルカンは剣を眺めながら王を待っていた。なんでも新しいコックを雇ったらしい。何故コックを雇って俺が此処に呼ばれたのかはよく分からないが。
「シャルルカン!」
暫くするとシンドバッドが大股でニコニコしながらやってきた。後ろにはジャーファルと小柄な女が1人。思わず彼女に視線をやると王は苦笑しながら言った。
「ヤムライハはどうしたんだ?」
「あー、また引きこもってるみたいですよ。魔法バカですから。」
「そうか、それは残念だな。」
「寧ろ良かったんじゃないですか?彼女に捕まるとユキが大変ですし。」
「そうも言っていられんだろう。まぁ仕方がないな。シャルルカン、彼女はユキだ。ユキ、八人将の1人シャルルカンだ。」
「こんにちはぁ。」
「どーも、よろしくな!ところでなんで俺が呼ばれたんですか?てっきり腕の立つ奴だから腕試しかと思ってたんですけど。」
「ん?その通りだ!ユキと戦って貰いたいんだ。俺達では歯が立たなくてな!」
「…は?」
思わず彼女を凝視する。背は小柄で華奢な身体。この少女が、王サマよりも強いって?
「冗談きついっすよー。こんな細腕で…」
「『敵を侮ることなかれ』」
「!」
「ですよぉ。」
ニッコリと笑う彼女に冷や汗。まさか俺が、ビビってる?
「…いいぜ、楽しませてくれよ?」
「お手柔らかにぃ。」
そして勝敗は至極簡単についた。
手渡された剣を不慣れそうにブンブンと振って首を傾げる彼女。
「お前、普段何で戦ってんだ?」
「クナイとか忍刀とか…チャクラ刀とか?まぁコレでいいですよぉ。大した問題じゃありません。」
「(ピキッ)ほぉ?いつまでそんな余裕が続くかな…行くぜ!!」
キーン
「(く、そ…動かねえ!!)」
「まぁまぁそう慌てずに。」
「なにをっ…!?」
首の後ろに痛みを感じた次の瞬間、シャルルカンの意識が飛んだ。それはほんの一瞬の出来事で、シンドバッドとジャーファルも思わず目を見開いた。
力の抜けたシャルルカンを地面に転がしたユキを見て、シンドバッドはとんでもない伏兵を手に入れてしまったと冷や汗をかいた。彼女が煌帝国に先に見つからなくて良かったと。これから先、奪われる訳にはいかないと。
「…ユキも慌てすぎだ。これでは折角の計画が水の泡じゃないか。」
「だって怠…面ど…緊張しちゃってぇ。」
「本音が丸聞こえですよユキ。…まあ心配ないでしょう。」
「?何故だ?」
「マスルールもシャルルカンも鍛錬バカですからね。手合わせに引っ張りだこでしょう。自然とユキの実力は知られると思います。」
「ゲェ。」
本当に嫌そうな顔を浮かべた彼女が、ジャーファルの予言通りに勝負を挑まれるのはそう遠くない話。
忍者の三病
「恐怖を抱く」「敵を侮る」「あれこれ思い悩む」7/14
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