「…それは俺を牽制してるんすか?」
「んー…忠告、とは思わないんだ?」

先程までの意地の悪そうな表情を崩してヘラリと微笑んだ仲野さんは、少し困った表情をしていた。さっきのを聞いて俺が黙って引く事を、ほんの少しでも期待していたからだろう。

「こんな誰が聴いているかも分からない往来でそんな機密事項を話すなんて、幾ら仲野さんでもしないっすから。」
「でも、とは失礼だなー。まあ当たりだけどね。」
「なら…」
「んー。ある意味牽制なのかな。俺は見張り役だったから、此処に来てからの彼女を一番見てきた訳だけど。」

その言葉にムッとする。ただでさえでもチョウジより知ったのが後なのだ。仲野さんよりも後で、しかもこの里に来てから一番だなんて。
若干眉をしかめたのが見えたのか、仲野さんは楽しそうに微笑んだ。

「そんな怖い顔しないでよー。なんつーか、妙に情が移っちゃってさぁ。」

それは、忍としてはあってはならない事。
何故ならそれは命取りだから。一人の油断が、里にまで被害をもたらす事だってある。

「……本当に必死だったんだよ、右も左も分からないような感じで。硬貨の価値も知らなくて買い物一つに戸惑って。」

だから情報操作が幾ら優れていても、この人は何時までも中忍なのだ、と悪態をついてみても、それを本人も分かっていて直さないのだから仕方がない。

「知ってる奴が居ない場所に一人きりで。話し相手だって殆ど居なくて。」

俺が知らない彼女。

「夜は静かに声も出さずに泣いて、そのまま疲れて眠るんだ。」

その片鱗に彼女の本質をみた気がして。

「だからさ、奈良くんみたいないつ死ぬのか分からないような輩に、彼女は任せれないなーと思う訳よ。」

彼女が何を抱えているのなんて知らない。

だけど、それでも。




────彼女が好きだって…。これが、この恋が俺にとって最初で、最後のもんだって思うから。

「残念ですけど、仲野さんの期待には沿えません。」
「へえ?」

仲野さんのそれが、愛情なのかはたまた庇護欲なのかは分からないし興味が無い。だってそれが例えどんな感情だろうと、彼女は渡せないから。

「俺がこんな面倒臭い事、ただの気まぐれでやる訳ないじゃないですか。」

今、凄く……凄く、アンタに会いたいと、そう思った。