「…あ」
それはいつもと変わらない休日。買い物をして街をぶらついて。いつものように質屋に立ち寄った時の事だ。
───…ネックレスが無くなっている。
思わずガラスケースに駆け寄り、商品をザッと見渡す。それでもやっぱりそこにソレは無い。
「…」
思わず下を向き、拳を握り締める。少し延びた爪が刺さって痛い、なんて頭の片隅で考えながら自嘲的に笑った。
「はは…」
売れちゃったのか。
別に、凄く大切な物って訳では無かった。初給料で買った品だし、それなりに値段もしたから思い入れも思い出もある物ではあったけれど。
だけど、それでも。
この世界に来て自身の記憶でしか証明出来ない、私という不確かな存在。それを証明してくれる数少ないモノの一つだったのに。
無くなって初めて気付く、なんてよく言うけれど。
「っ…」
これほど自分が不安に思っていただなんて思わなかった。
だって、木の葉の人達は優しかった。アパートの大家さんだって、仕事場の女将さんや大将だって。何処から来たのかも分からないような怪しい私を、怪しく思わなかった筈が無いのに。それでもそれを面になんか出さないで、接してくれていた。
だけど本当は?
私は此処では異分子で。
この世界の事、知っているようで何も知らない。
此処では、私を知っている人は誰も居ない。
この歳でホームシック?笑えない。手紙も、メールも、電話も出来ないこの場所で。相談も出来ない。吐き出せない。だから胸の奥にしまい込んで。それでも──溢れてきてしまうこの気持ち。
「…寂しい」
そう、寂しいんだ。
ポロリと一粒、涙が零れる。ハンカチなんて持っていなくて(女としてどうなんだ)、裾でそっと拭う。だけど次々に溢れてくるソレに息が詰まって苦しくて。
「…っ」
こんな日の昇った明るいうちに人通りの多い道で俯き涙を流す私はきっと不審者だ。泣いてる人って結構目立つからね、うん。
大の大人が、なんて自分を叱咤しても溢れてくる涙は止まらなくて。涙だけなら可愛いけれど鼻水まで出てくるものだから可愛げが無い。生理現象だから仕方がないけれど。
いつまでも此処にいても仕方が無いし目立つので、さっさと家に帰ろうと足を動かす。だけどそれは女の子の声で止まることとなる。
「あの…」
目から下は服の袖ですっかり隠して、それでも鼻をすすり、涙を流す私を呼び止めたのは以前遠目に見掛けた少女だった。
主人公とは違う柔らかな色をした金髪の長い髪をポニーテールにして。長い前髪で右目は隠れているけれど、その青色の綺麗な瞳が心配な色を映して。
「大丈夫ですか?」
すっと差し出された可愛らしいハンカチに女子力の差を感じる。流石だないのちゃん。
声を出すと込み上げてきそうだったので頷いた。ハンカチを受け取らない事を遠慮と思ったのか、彼女は目元を覆う手に優しく握らせた。
「一人になれる、いい場所教えてあげましょうか」
え?と聞き返す間もなく私の手を引き、少し早足で歩き出すいのちゃん。
「こんな天気のいい日に家に閉じこもって泣くだなんて何も解消されないです。余計にウツになるだけですよ」
確かに今日はいい天気。雲がどれ位で快晴っていうんだっけ、なんて関係無いことを考えるくらい空は青く澄んでいて。
「私の幼なじみが特等席みたいに使っている場所なんですけど、木の葉が一望できるんです」
幼なじみ?幼なじみってシカマルじゃね?
「そ、んな場所…」
その場所はきっと、シカマルが好んで居る場所という事で。そんな特別な場所に私が行っていい筈なんかなくて。
「大丈夫ですよ。」
振り返った彼女は日光を浴びてかキラキラ眩しくて。
「アナタは特別ですから!」
ニッと笑ったいのちゃんに、再びポロリと涙が零れた。
再び前を向いた彼女だけれど、握った手が温かくて心強くて。その優しさを信じてみたいって思った。
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