まぁ、一目惚れしたからといって極度の面倒臭がり屋の俺が何か行動を起こす筈もなく。何事もないように日々任務をこなしていた。そして久しぶりに休みの今日、偶然休みが重なったいのに引きずられて甘栗甘に来ていた。

最近あったことや仕事の愚痴、職場の恋愛事情など話題は尽きる事が無い。俺の気のない相槌も心得ていて、お茶を啜る俺を咎める事もしない。こういう所で他の女とは違って幼なじみは楽だと思う。
いのが大方話し終えたのか、お茶を一口飲んでふぅ、と息を吐いた。

「で?」
「あ?」
「あ?じゃないわよー。シカマルは?最近なんかあった?」
「俺は別に…」

ふと脳裏をよぎったのは先日の女。朝靄がかかった冷たい空気の中、暖かな笑みを携えて挨拶してきた人。

「…何も無えよ。」

一瞬言葉に詰まってしまったが、彼女を頭の片隅に追いやって言葉を返す。しかし、そこを目ざとく気付いて突っ込んでくる所が幼なじみ(いやチョウジはそうではないから)、いのは厄介だと思う。

「なにその間、何かあったわねー?」
「…」
「そんな顔してもダメよ!誤魔化そうなんて考えない事ね。」
「…」
「もしかして…好きな人でも出来た?なーんて…」
「ごふっ!」

なんでこんなにピンポイントで当ててくるんだこの女は。お茶を吹き出すのを堪えて思わず咽せる。

「げほっ、ごほごほっ」
「なぁに、まさか本当に好きな人出来たわけ?うーわー!シカマルが恋ぃい?似合わなーい!」
「げほ、お前な…」

大声で言いやがるから店の客の殆どがコッチを見てくる。居心地悪ぃ。自分の事だから尚更だ。
俺が周囲を気にしている間に落ち着いたのか、いのは餡蜜をスプーンで弄びながら息を吐いた。

「そっかー、シカマルが恋ねぇ。…なんだかんだ言ってシカマル女っ気ないから心配してたのよ?」

大きなお世話だ。

「砂の…ほら、テマリさん?も結局何にも無かったみたいだし。」
「はあ?アイツは関係無えだろ。」
「ほら、そういう風だから心配してたんだって。」

幼なじみのコイツは、ふとしたときに俺よりも大人だと思わされる時がある。普段は今時の女らしくキャーキャーうるさかったり、先程のように騒いだりしているのに、こういう時特に情緒面では男の俺よりも鋭かったりする。

「で?どんな子なわけー?」
「は?」

空気を一変させてニヤニヤしながら尋ねてくるいのに思わず顔をしかめる。

「は?じゃないわよ。名前は?歳は?あ、もしかして私の知ってる人?」

黙秘したいのは山々だがこの幼なじみ、なかなかそうはさせてくれない。ハァと深く溜め息を吐いて観念したように口を開いた。

「…知らねえ。」
「私の知らない人?」
「そうじゃなくて、俺も知らねえんだよ。」
「…はあ?」
「一回会っただけなんだよ。だから何にも知らねえ。」
「…あんたって頭良い癖に馬鹿よねぇ。」

そんなしみじみ言わなくてもいいだろうが。俺だって分かってる。

「はぁ、まあ頑張りなさいよ。」

たった一度、挨拶を交わしただけでこんなに気になってんだ。これから先、このままズルズルと引きずっていても仕方ない。めんどくせーけど、少し頑張ってみるか、なんて柄にもなく思って。

「…おー。」
「駄目だったらいつでも言ってくれていいわよー?間を取り持ってあげるから!」

頼りになる幼なじみなこって。