いのと話をしてから数週間。あれから何度か朝早起きをしてみたのだが、タイミングが悪いのか一度も会う事が出来ない。道を歩いていても既に美化し始めているだろう記憶を頼りに、姿を探す日々。彼女を忘れるかのように次は任務に没頭し始めるが、それでも日々思いは募るばかりで。…もうこれ一種の病気だ。

さて、今日の任務は木の葉の里の案内。こんなもん下忍の任務だろうと思わないでもないが、この依頼人がとある国のお偉いさんだそうで。護衛も兼ねているからと、上忍の俺が駆り出されたわけだ。
まあ人当たりも柔らかいし、その大名の娘も走り回るようなおてんば娘ではないので、幾分楽な任務だった。
最近働き詰めだったから、五代目も気を使ってくれたのかもしれない。

「奈良さん、アソコでお茶にしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。」
「すまんね、娘は団子が好物なものだから。1日にそれはもう沢山の団子を食べるのさ。」
「お父さまっ!…もう、行きましょっ?」
「はあ。」

手を取られて団子屋へと引きずられる。一応護衛なんだから依頼人を置いてく訳にはいかねえんだけど。周囲の気配を窺いつつ娘さんについていく。
古びた暖簾を潜ると、古い店ならではの趣のある店内が広がる。古いといっても汚い訳ではなく、隅々まで掃除は行き届いているようだ。天井からつり下がった洒落た照明が店内を照らし、テーブルの上に生けられた花を麗しくみせる。
その落ち着いた雰囲気に比例するように、客も年配者が多く、若者でも同期の奴らみたいに騒がしい奴はいない。静かに本を読んでいたり、何か書き物をしていたり。ナルトやキバなら五分も保たないような空間だが、俺は意外と好きかもしれない。

「へぇ…」
「お二人は何になさいます?私はお団子三本ずつ…いえ、五本にしようかしら?」

ずつ!?因みに種類はみたらし、きな粉、ゴマ、あんこ、甘味噌、醤油の六種類。ということは三十本…。
思わず口元が引きつるのを抑えきれずにいると、依頼人が苦笑する。

「はは、すまんねぇ。では私は餡蜜を貰おうかな。」
「いえ…俺はお茶で。」

元々甘いものをそんなに食べない方だけど、話を聞いてたら既に満腹状態だ。食いたくねぇ。店員を探していると、奥から湯のみを運んでくるのが見えた。結構混んでるのに一人なのかと内心頷きながら顔をあげて息を飲んだ。

なんで、彼女が此処に…?

「すみません、お待たせ致しました。」
「えっと、お団子五本ずつと餡蜜…奈良さんは本当によろしいので?」
「…え?あ、はい。」
「ではそれで。」
「はい、畏まりました。少々お待ち下さいませ。」

綺麗な動作で頭を下げて戻って行く姿をじっと見つめる。心臓がかつてない程に激しく動き、胸がキュッと締め付けられる。
朝早かったから頭が働いていなかった。朝靄でよく顔が見えなかった。普通の女との会話が久しいから。色々な理由をつけて何処か否定していた気持ち。記憶が美化されてるのではと、なかなか会えない彼女に言い訳をして。
しかし実際は美化どころか、記憶見事に一致して、高鳴る鼓動は前回よりも速い。
こんな時でも何処か冷静な自分がいて、コレを客観的に見つめる。あー…、めんどくせーがコレはもう否定なんか出来ねぇな。
完全な一目惚れ。それは気のせいでもなんでもなくて。目を見た瞬間に思ってしまったんだ。

アンタが好きだって。