朝にアパートの前を掃除し始めて幾らか経った頃、偶然シカマルと挨拶したことがある。それはほんの一瞬の出来事だったけれど、半年近く経った今でも話した内容を事細かに覚えているのは仕方のない事だと思う(だって凄く格好良かった)。
その後も他のキャラクターを見かけることはあっても話す事なんかなかったのだが、つい先日シカマルが店に来たのだ。まあ街中ですれ違う分には問題ない。甘味処だからたまーに買い物に(喫茶店としてなら甘栗甘が常連のはずだし)来るのも許容範囲内だ。だけどコレは予想外、予定外の出来事だ。

「い、らっしゃいませー…。」

怠そうに頭に手をあてたシカマル。いや、うん格好良いよ。その気怠げな感じが大人の色気ムンムンで素敵。
先日の初来店の時は凄い美人さんとその父親の三人で訪れた。ん?テマリちゃんは?と思ったものの、まぁ奈良家は名家だったし色々有るのかもなと勝手に解釈。
週に数回の頻度で訪れるようになった彼は、ぺこりと頭を軽く下げると最早指定席となりつつある店の最奥、壁際の席に腰掛ける。
お茶を運んだ時に(甘いものはあまり好かないのか)いつも醤油団子を一本だけ頼む。そしてのんびりとお茶を啜りながら持ってきた巻物や書物を読むのだ。その姿もまた色気があって素敵。

「お待たせしました。」
「…ども。」

コトリと団子を置くと視線を少しだけ寄越してから一言、お礼を言ってくれる。そんな些細なことが嬉しくて、少し口元を緩ませてからお辞儀をして下がる。

再び伏せられた顔を遠目に眺めてから視線を手元に移して、湯のみやお皿を洗剤のついたスポンジで洗う。
シカマルはどんな内容の物を読んでいるんだろう。興味はあるが如何せん字が読めない。いや、これは本当予想外だった。店の名前とかはそれ程問題はないのだが、本屋で小説を手に取った時に衝撃を受けた。…なんで草書体や行書体なんだ。読めないじゃないか…!単語ならば予測して理解する事が可能だったが、文章は無理だった。最早暗号。
ということで、気にはなるがそれ止まり。聞くなんて出来ないしね。

ふぅ、と息を吐いて手を拭う。大体一時間ほど滞在してシカマルは帰っていく。以前会った事なんて彼は覚えていないだろうけどコッチは一方的に知っている為、お会計の距離で緊張してしまうのも仕方がない。
あー今日も眼福でした。