どうしてこうなったんだろう?と内心首を傾げてしまう。シカマルに文字を教わる約束を取り付けられてから、不思議で仕方がない。
まず、シカマルがこの店によく訪れるようになったのはまだいい。雰囲気が気に入ったんだろう。
困っているのを見かねて声を掛けてくれたのも、まだいい。だって彼は(漫画で読んだときだけど)なんだかんだいって仲間思いで優しい人だったから。きっと放っておけないくらい表情をしていたんだと思う。

でも、なんで文字?もしかして文字って読み書き出来ないとマズいのだろうか。いや、マズいとは思うけれど所詮は他人事。時間を割いてまで教える事ではない。子供用の本とか紹介すればいいだけだ。

では何故か。
一つの仮定に辿り着く。これはあくまでも、あくまでも仮定だけれど。

監視

今更と思わないでもないが、気配なんて辿れない私には今までチェックされていても、それを確かめる術はない。
この世界は十代前半で忍になる、なれる世界だ。だから子供だからといって、女だからといって、例え無力に見えたって。里にとって無害だとは限らない。
ある日突然、荷物も何も持たない見慣れない服装の、見慣れない女が来たんだ。怪しくない筈がない。
遠くからの監視では分からないから。正体を表さないから。だから接触してきたんじゃないかって。ただ遠くから監視していてくれれば良かったのに。店のお客さんでいてくれればよかったのに。

「ふう。」

質屋のショーケースに手をあてて溜め息を吐く。私が私だということの証明の一つのネックレス。売った値段よりも随分高くなってしまったネックレスは、未だに取り戻す事が出来ない。
これを買った状況も、店も覚えている。住んでいた、育った所の事だって。親や友達、今まで関わった人の事だって。
私は木の葉にとっては異物で。私はこの世界には異物で。
誰にもいえない事実に時々押しつぶされそうで。猛烈に寂しくなる時がある。

その優しさが嘘だとしても、縋りたくなる。

もう一度ネックレスを見てから踵を返して家へと足を向ける。見上げれば今までと変わらぬ空が広がっていて。込み上げてくるものをギュッと目を閉じる事で我慢した。