「あ…」

任務の報告をし終わった所で偶然チョウジと会った。久しぶりに飯でも食いに行くか、ということになっていつもの焼き肉屋に向かっていた時。不意に視界の端に映った人物に思わず声をあげた。

「ん?どうしたのシカマル。」
「あ、いや。なんでもねえ。」

不思議そうにするチョウジに、取り繕うかのようにいつも道理に返事を返す。けれど自然と視線は彼女へと向いていた。
彼女は立ち止まってショーウィンドウを眺めていた。そして短く溜息を吐いて俺に気付くことなく、背を向けて歩いていってしまった。

「あれ、今のって吉田さん?」
「…はっ?」

俺の視線の先を辿ったらしいチョウジは、彼女を見ながらポツリと呟いた。知らない名前(まさかチョウジが彼女の名前を知っているなんて思わねえ)だったために反応が遅れ、チョウジの視線の先を見て馬鹿みたいに呆けた声が出た。
つい先日、一方的に取り付けた約束。何時やるとか詳しい事は次回までに考えておくと言って店を出たあのときの俺。当然、初めにやるべきである自己紹介なんかも未だな訳で。

「あ、シカマルは知らない?団子屋の人なんだけど。」

知ってる。いや、知らない。だって彼女の名前も知らないのだから。そんな俺の心情なんて知る由もないチョウジは、そのままうっとりとした顔で話し始める。…おい涎。

「最近は行ってないんだけど、あそこのお団子美味しいんだよねー。」
「へえ。」
「お店の雰囲気も落ち着いててね、きっとシカマルも気に入るんじゃないかなぁ。」
「…へえ。」

すでに常連と化している。
彼女への下心満載で通っているわけだけれど、勿論店の雰囲気とかも気に入っているわけで。流石は幼なじみというところか。俺の好みが分かってる。
いつも通り興味なさそうに表面上取り繕えば、チョウジがにっこりと笑った。

「なんだ。いのが言ってたのって吉田さんの事だったのか。」
「はっ!?」

いのが言ってたって…俺のことだよな。アイツまさかそこら中の奴らに話しまくってんじゃねぇだろうな。
思わず頬を引きつらせると、チョウジがケラケラと笑った。

「あ、見てシカマル。」
「……?なんだコレ。」

チョウジに促されて見たものは、ショーウィンドウ越しに飾られていたアクセサリー。

「さっき吉田さんが眺めてたのってコレかな?」

チョウジが指差したのはシンプルなネックレス。そういえばいの達が雑誌を見ながらこういうの着けてみたいと騒いでいたのを見たことがある。忍には無縁なものだからな。戦闘において邪魔になる可能性があるから。
店の看板を見ればそこは洒落た店なんかではなく、古びた質屋。ということは元々コレは彼女のもの、ということだろうか。
再び焼き肉屋へと歩き始めたチョウジに倣って、もう一度だけそれに視線を移してから後を追う。
何か事情があって(十中八九金銭的な問題だろうが)売ってしまったらしいあの首飾り。溜息を吐いていたということは、彼女にとって大切なもの、もしくは未練が残るものというわけで。その理由の中に男が入っているかもしれないと考えるだけで眉間に皺が寄る。

「シカマルー!」
「!…おー、今行く。」

焼き肉屋の前で戦闘態勢に入ったチョウジに呆れながら、頭の片隅では彼女の事ばかり考えていた。