いつかの記憶

私には前世の記憶がある。

こういえば頭が可笑しいと思われるかもしれないが、何も前世の記憶があるのは私一人ではない。前世の仲間、先輩や後輩、先生方など、親しかった人達が現代にも居て、各々記憶を持っていた。記憶を取り戻した時期はそれぞれであるが、皆一様に再び出会えた事に喜んだ。

「おーい三郎。」
「なんだハチか。」
「なんだとはなんだ!ったく、なんかボーッとしてたから心配してだなぁ…」
「話し相手が居なくて寂しかっただけだろ。」
「そんなんじゃねーよ!!」

軽口を叩きながら頬杖をついて、教室の窓から空を見上げる。あの頃と変わらない空は、憎らしいくらいに青い。
目を閉じれば蘇るあの生死と隣り合わせだった日々。けれど、だからこそ学園での日々は俺達の心の支えとなっていた。感情を殺しても、決して自分を見失わないように。

「なあハチ。」
「あ?なんだよ。」
「アイツは…確かに居たよな?」

全てを覚えている、思い出せている訳ではない。どうしても、霞がかって思い出せない奴がいる。確かにアイツは俺達の側にいて、俺達と学園生活を送っていた筈なのに。

「…当たり前だろ。」

一緒に卒業しようと約束した。それが、叶うことは無かったけれど。
大人になっても、忘れる事なんて一度も無かったのに、どうして。

「どうして、名前も…顔さえも……」

一緒に悪戯した。一緒に勉強をした。一緒に昼寝した。一緒に団子を食べた。一緒に…、一緒にいろんな事をしたのに、どうして、どうして…

「…思い、出せないんだろうな。」
「…」

なあ、俺達は生まれ変わって、また此処に皆でいるぞ。
だからさ、待っててやるから、ちゃんと来いよ。

この平和な世界の、あの頃と変わらぬ空の下で、大切なキミを想う。