重なる

「転入生を紹介する。入ってこい!」

ガラガラと教室の前の扉が開けられる。入ってきたのは派手な化粧にくるくると巻かれた茶髪の髪、スカートを短くした女だった。
初めて見る筈なのに彼女から目が離せない。ふわっとした髪を揺らして此方を見た彼女はニコッと笑った。

「神山優芽です!宜しくお願いしますっ!」

その透き通るような声が頭の中で木霊する。
先生からの説明もそこそこに、質問タイムに入った。何処から来たの?部活は何かやってた?どんな人がタイプ?…
その中の一つの質問に、彼女は笑みを深くした。

「彼氏はいるのー?」
「えっと、彼氏は居ないんだけど、ずっと会いたかった人達が居るんだっ!」
「ええ?誰ー?」

クラスの男が下心満載で聞いた質問に、彼女はニコッと笑い教卓から降りた。そのまま俺に向かって一直線に歩いてきて、机から一歩離れた位置で止まった。

「竹谷、くんだよね…?」
「あ、ああ…」
「君は鉢屋、くんでしょう?」
「なんで名前…」

ドクンッと心臓が波打つ。俺は、俺達は

「忘れちゃった、かな…?」

この女を、知ってる…?

「…ハチ、三郎。」

自信満々に笑うこの女が、霞がかったアイツの挑発的な笑みに似てもいないのに重なって。
名前、なんて言ったっけ。神山優芽?優芽…。そういえば優芽だ。やっと思い出せた!

「優芽…か?」
「っうん!そうだよっ!」

ぽつりと呟いた名前。発したこともないような単語の気がしたけれど、きっと気のせいだ。だって、この女は俺達の事を知っていた。名前で呼んで、呼び返せば嬉しそうに笑った。

「やっと、会えたね!」

数百年の時を越えて。そう聞こえたような気がして、胸にこみ上げる何かを抑え込むように息を吐いて微笑んだ。