少しして、イザナが動き出すことを知る深愛。
深愛も来るようにとイザナから呼び出され、蘭たちと共に向かうことになった。
イザナやカクちゃんたちと会うのは久々だったが、久々の再会を喜べる雰囲気もなく、そこにあったのは重苦しく張り詰めた空気だった。
そんな中イザナから「天竺」の結成が宣言される。
重く張り詰める緊張感の中に、僅かながらみんなの高揚感を感じる。
その中でただ一人、深愛だけは、底知れぬ得体の知れない不安に絡み取られそうになっていた。
嫌な予感を拭いきれない中、イザナから深愛もチームに加わることよう命令が下る。
「…イザナ、それはダメだ。深愛はチームには…」
「は?ダメって何?誰に命令してんの?」
「ら、蘭ちゃ…っ」
思わず蘭の名前を呼ぶが、竜胆によって遮られ、静かにするよう人差し指を立てられる。
「…俺らはいくらでもイザナに従う。
でも深愛はチームには入れさせない」
「……だったら力ずくで止めてみろよ」
「…っ、」
竜胆も覚悟を決めた顔で蘭の元へ行ってしまう。
いても立ってもいられず深愛も拳を握りしめたが、兄弟の取り巻きにそっと制され、首を横に振られる。
…わかってる、私が手を出しちゃいけない事くらい、言われなくてもわかってる。
でも、あんた達は見たことないでしょ…?
イザナの強さを…。2人をもってしても勝てない事を…!
目の前で大切な2人がボロボロになっていく所をただ見ているしかできない。
やめて…もうやめて…2人が死んじゃう…!
私の大切な家族が…大好きな家族が…!
「……もうやめて!!イザナの言うこと聞くから!!」
気がつくと泣きながらそう叫んでいた。
イザナの鋭い拳の動きがようやく止まる。
「……み、ちか…やめ、ろ…」
「ははっ……はっ、これが家族ってもんか…笑えるな…」
竜胆に跨り空虚を見つめたまま小さな声で何かを呟いたイザナの姿に、深愛の背筋には悪寒が走っていた。
あれは…誰…?私の知っているイザナじゃない…。
「…深愛の涙に免じて、俺も譲歩してあげるとするかな」
立ち上がりそう言ったイザナは、いつものイザナに戻っていた。いつものと言っても違うイザナなんだけど…。
イザナが譲歩として出した条件は2つ。
表向きにはチームに属さないが、天竺側の人間として情報を集め、他者からの仕事は受けないこと。
イザナの命令はどんなものでも必ず聞くこと。
それがイザナの出した条件だった。
さすがの兄弟も、これ以上はただ頷くしか無かった。
「…悪い、お前を巻き込んで」
「蘭ちゃんてば何言ってんのー?どちらにしたって、私はいつでも2人と一緒の道を行くよ。大事な家族だもん」
イザナにやられた傷を手当てされながら、珍しくぎこちない表情の蘭と、露骨に苦い顔をする竜胆。
「イザナは2人がついて行こうって思ったくらいの奴なんでしょ?だったら私もついてくよ。
ていうか、2人ほどじゃないけどイザナを知らないわけじゃないし…嫌いでもないしね。
まぁ、一応こんなんでも女の子だし?特服着るのはちょっと勘弁だけどね〜」
無理にでも明るくしようとする深愛に2人が言葉を探していると、深愛の祖母が血を拭くための温かいタオルを持ってきた。
「蘭、竜胆。あんた達はね、深愛を守ることばかり考えなくてもいいのよ。
この子は私たちが何を言ったって、どうせ自分の決めた道しか進まない子なんだから」
「お、おばあちゃん…?なんだか言い方に棘が…」
「いい?たとえどんなにかっこ悪いことしたってね、私たちには“3人とも”可愛い孫なのよ」
「「………」」
「どんなに悪い道だとしても、他の人がなんて言おうと…あんたたちには、後悔の無いよう自分らしく生きてほしいのよ。それだけはよーく、肝に銘じておきなさいね」
「「ば、ばあちゃん…っ」」
「さ!ほらほら、早く血拭きなさい!
まったくも〜こんなになるまで喧嘩して!」
おばあちゃんはそう言うと、温かいタオルを蘭ちゃんと竜胆それぞれの頭の上にポンっと乗っけて、代わりに血のついた別のタオルを回収して行った。
「…竜胆、なに泣いてんの」
「…な、泣いてんの深愛だろ」
「……ふはっ、はは!
ったく…ばあちゃんには勝てねーな」
「…なんで俺らの気持ち全部バレてんの?」
「うーん…私たちのおばあちゃんだからかな」
「それ。間違いねぇわ」
「なんだよそれー、一生勝てねぇじゃん」
「竜胆のくせにばあちゃんに勝つ気だったのかよ」
「そうだよ、竜胆のくせに」
「くせにってなんだよ!」
3人で笑いながら、深愛は足首に彫られた「この先も兄弟について行く」という決意を、改めて胸に刻んでいた。
どんなに危険で苦しい道でも、私は2人について行くんだ。きっとそれが、私が後悔しない道だから。
兄弟のような愛情で互いに慈しみ、進んで互いに尊敬しなさい
(血よりも大切な絆が、そこにはあるのだから)