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▼【惚れ薬】

◇狼さんの娘

「とっても難しい調合をしている息抜きに惚れ薬を作ってみたんでスネイプ先生、試飲してみてください!」
「材料を無駄にするな。…聞くが、難しい調合とは?」
「内緒です。でも色々とわからない箇所が多すぎて頭がぱんく寸前です」
「寝不足のようだが?」
「昨日はずっとその調合の資料を集めていたので。
 というかそれはいいんです! 惚れ薬、飲んでください! あ、今、舌打ちしましたね!」
「気づいたのなら諦めたまえ」
「凄く飲んで欲しいわけではないんですけれども、ただ、先生はこの薬はどんな匂いがするのか気になって。どんな匂いがします?」
「……ちなみにMs.は?」
「私は駄目みたいです。魔法薬っぽい匂いしかしませんから」
「……。ホグワーツの魔法薬学教授といえば?」
「スネイプ先生ですね! 急にどうしたんです?」
「はぁ」
「溜息をつくと幸せが飛んでいっちゃうって知ってます?」
「どうやらMs.はよっぽど寝不足なようだな」
「かもしれません」
「自覚が有るならさっさと寝たまえ」

(中々寝ようとはしない生徒をほぼ強制的にベッドに横たえるとすぐ寝息が聞こえてきた)

▼【盾】(アベンジャーズ)

◇スティーブ

「ね。スティーブ。貴方の盾に触ってもいい?」
「どうぞ?」
「不思議。本当にこれ、傷がつかないの?」
「スタークのビームや、ソーのハンマーには耐えられたよ」
「わぁ」

彼女は表情を輝かせて、盾をなぞるように指を這わせる。

「私、この盾が好き」

微笑みながら、彼女は盾にキスを落とした。

「キャプテンアメリカの象徴だろうし、みんなの目印にもなるし、なにより、スティーブのこと、守ってくれるから」
「…。確かに僕を守ってくれる良き相棒だけれど、恋人を取られるんだったら話は別かな」
「あら? 盾にヤキモチ?」
「キスは浮気」
「ふふ。許して、ヒーローさん」

(彼女から盾を取り上げて、キスを奪い返す)

▼【同じ景色も鏡越しに見える】

◇龍が如く(真島)

ビルの屋上で女は神室町の夜景を見つめていた。屋上に上がってきた真島は女に気がつき、隣に立って彼女と同じ景色を見下ろした。
真島だったら、例え屋上の手すり近くにいたとしても、彼女が屋上に踏み込んだ瞬間に相手の気配に気がつくだろう。
だが、カタギである彼女は真島が隣に並んだ時にやっと気がついたのか、隣の彼を見て少し驚いたように目をぱちくりとさせた。

「気が付かなかった」
「そらな。自分もそう簡単に後ろ取られちゃあかんで」
「無茶言わないでよ…」

弱々しい声でそう言う彼女を茶化そうと、真島はにやりと笑う。
だが、神室町を見下ろすその横顔は何よりも真剣で、そして何よりも悲痛な表情していた。
真島の笑顔が消え、次に口に出そうとしていた言葉を忘れてしまって再び夜景を見下ろす。

極道の自分と、カタギの彼女。

「私は一般人なんだから」

同じ景色は最初から見えてはいなかったらしい。

▼【こたえ】(ウォッチメン)

◇ロールシャッハ ※原作後:死ネタ

母親を探す子供は母親とはもう2度と会えないということを知らないのか。
倒れたまま自らの臓器を探す娼婦は自分があと数秒で死ぬのを知らないのか。
知らない。困惑。戸惑い。わからない。
世界が混乱に満ちていく中、彼女もまた、地獄絵図と化したニューヨークで訳も分からず涙を流していた。

「ロールシャッハ…、助けて…。どこに居るの…、どこに」

潰れてしまった片側の世界で、彼女は自分のヒーローを探す。伸ばした手の先に見えたのは鮮やかな青色をした裸足だった。

「…Dr.マンハッタン?」
「これを、君へ」

Dr.マンハッタンが差し出したのは、酷く見覚えのあるシルクハットだった。彼女は察して全知全能の神に問いかける。

「……ロールシャッハはどこに行ったの…?」
「彼は妥協しなかった」
「答えになっていないわ」
「彼の元に連れてって」
「私には出来ない」
「いいえ。貴方になら出来るわ。彼の元におくって」

(Dr.マンハッタンは思考する。彼女の幸せを思考する)
(答えは出た。最初から出ていた)
(そして、永久に微笑みを浮かべ続ける彼女にシルクハットを被せた)

▼【夏】(アベンジャーズ)

◇バッキー

バッキーを見つけた。ウィンターソルジャーなんて呼ばれている彼と、手を繋ごうと駆け寄る。

彼の名前を呼びながら手を伸ばすと、バッキーはばっと左手をあげてしまった。
手を繋ごうとしていた私は行き場を失った手を右往左往させる。

泣きそうな顔してバッキーを見上げると彼は、呆れたように笑った。
そしてバッキーは笑いながら銀色になってしまった左手を、少しだけ私の手に触れさせた。

私はびっくりして銀色の手から逃れる。日差しを燦々と浴びた銀色の左手は、とっても熱を持っていたのだ。

悪戯に左手をちらつかせるバッキーから笑いと悲鳴とを上げながら逃げる。

少ししたら、彼は自身の右側を示して、私も微笑みを浮かべて彼の右手と手を繋いだ。

▼【ひとりごと】

◇スネイプ ※7巻後

「私も魔法薬学にはだいぶ慣れたわ。ただ、発注をかけるのが時々遅れてしまって、たまに授業の中身を変えてしまうんだけれどね。
 他のみんなは元気。みんな、元気にしてるし、みんな、前と同じものを取り戻そうとしているわ。
 なんとか、うまくやってる」

時々笑いながら、そして時々寂しげにしながら、私はいつものように無言を貫く彼の前でお話をする。
暫く話したところで、私は再び表情に寂しさを浮かべた。

「貴方は、私は独り言が多いって、よく言っていたわよね。余りにも多いから煩いって、怒ってた」

私は貴方が眠る十字架の前にしゃがみ込む。

「でもね。これは貴方がいなくなってから、久しぶりの独り言なの」

ぽつりと零した私。手向けた百合の花は白の輝き。

「だから、許してね」

▼【暑いのは貴方も同じ】

◇狼さんの娘は最初から

「今日の調合は火を使わないものにしません?」
「何故」
「だってとっても暑いんですもーん。教室中で大鍋を使ったら、さらに暑くなっちゃいます。
 そうだ。今日は氷薬の調合をしましょうよ」
「試験には関係ない」
「この授業速度なら1時限分くらいは問題ないはずです。もう1時限分はちゃんと授業しますから」
「………君がちゃんと指導するのならば」
「わーい」

彼はその後、授業の後半、きっちり1時限分を私に与えてくださいました。
授業中、生徒達に教えながら作った氷薬を半分にして、授業のあとは2人、それを持って涼んだのです。


(その真っ黒い服は、とっても暑そうです)

▼【肉を断たせて】(FF7)

◇セフィロス

絹色のような銀色の髪。さらりと髪が流れると頬に走った一筋の赤。

「やっと、一太刀」

初めて見る、驚きの表情をしたセフィロスに、私は不敵に微笑みを向ける。

肩にはセフィロスの愛刀、政宗が突き刺さっている。
私の足元には水溜りのように真っ赤な血が広がっていく。
意識がどんどん遠ざかっていく。

私の名前を叫ぶように呼んだセフィロス。
私は微笑みを浮かべたまま、自分の血の海の中に倒れていった。


(死ぬ気で挑まないと、英雄には勝てない)

▼【祈り】

◇狼さんの娘

夜。目が覚めました。

ぱちりと、急に意識が覚醒するかのように目が覚めました。
隣にはスネイプ先生が眠っていました。それもそうです。まだまだ夜は長いのですから。

寝顔を見つめていたくて身体を横にすると、私が身動きしたことに気が付いたのか先生の瞼が薄く開きました。

ぱちぱちと瞬きをしながら先生を見つめていると、スネイプ先生は手を伸ばして私の瞼を覆ってしまいました。
冷たい掌を心地よく感じて目を閉じます。擦り寄るように近づいて腕の中に収まります。反射のように抱きしめ返してくださる先生に笑みを浮かべます。

少ししているとゆっくりとスネイプ先生の体重が私にもかかってきます。再び眠ってしまったのでしょう。

「おやすなさい。スネイプ先生」

小さな小さな声で囁いて、彼のしあわせな眠りを祈るのです。


†アラン・リックマンさんの訃報を聞いて。アランといえば、スネイプ先生みたいな節があって、本当に辛い出来事でした。『永遠に』と演じた彼を愛して。

▼【年越しカウントダウン】

◇狼さんの娘 ※完結後

「もう大人ですから!」

そう言い切ったMs.は初めて飲むというワインを口にして、あっさり眠りについていた。
我輩の膝の上に乗ったMs.の頭を撫でる。ぐっすり眠っているその姿に苦笑が零れる。年越しのカウントダウンをするのでは無かったのだろうか。このままでは寝過ごすだろう。

流れた髪をかき分けて、額を撫でて、ふと時計を見ると既に今年も残り数秒だった。年越しの日に誰かと共に過ごすのも久しぶりだ。

「Happy new year.」

そう呟いて眠ったままのMs.にキスを落とす。彼女の終わりと始まりを同時に奪って、広がる幸福感を味わう。

目覚めたMs.には酷く怒られるだろうが、あっさり眠ってしまった彼女の方が悪いのだ。
カウントダウンがしたいというのならば、来年こそはちゃんと起きていればいい。

また来年も、ここでふたりで。

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