【今年最後のドライブ。来年最初のドライブ】(DOTM和解後)
12月31日 23:07
「マリア。忙しいところすまないが、私と一緒にドライブに行ってもらえないだろうか?」
私にそう呼びかけたのはオートボット最高司令官のオプティマス・プライムだった。
抱えていた資料の束を一旦横に置いた私は、私の何倍もの身長がある金属生命体を怯まず睨みつけた。
「オプティマス…。誘ってくれたのは嬉しいけれど、私は今年中にこの紙の束を片付けたいの。
終わる兆しが見られないのが、本当に残念なことだと思うわ」
私の口から可愛くない台詞が溢れる。だが、これくらいの愚痴は許してほしい。
軍に勤めている以上、自由な休みは少ないとはわかっている。でも誰もが年末年始ぐらいはゆっくり過ごしたいと思うでしょう。
辞書のような資料の束を抱え直し、また歩きだそうとすると、フェイスパーツを悲しげに歪めたオプティマスが私の進行方向に大きな指を立ててとうせんぼをした。
むっと頬をふくらませた私を、オプティマスはただじっと青い透き通った瞳で見つめていた。
「そこをなんとか頼めないだろうか」
オプティマスはそう言いながらも、私の身体を優しく持ち上げ、すでに掌の上に乗せていた。
資料は私の手からもオプティマスの手からも溢れ、床にばらばらと散らかった。
…このままでは仕事が増えるだけだ。察した私は深く深く溜め息をついた。
「………貴方が意外と頑固なのはわかってるつもりだったんだけどね。
ではオプティマス、気分転換のドライブをお願いしてもいいかしら?」
私がそう言うと、オプティマスの表情がわかりやすく輝いた。
満面の笑みを浮かべているわけではないが、キラキラとした瞳がさらに輝いた気がした。
「だけど」
司令官の顔をビシッと指差してやった。
「この散らばった資料を拾い集めてからよ! 邪魔はしないで頂戴ね」
「…………わかった。大人しく待っていよう」
「そうして。すぐに向かうわ」
でもオプティマスがドライブに行きたいだなんて。
脱出常習犯のディーノじゃああるまいし。どうしたのかしら?
†††23:37
「お待たせ、オプティマ……あら。メガトロンも行くの?」
てっきりオプティマスだけが待っているものだと思っていたら、ビークルモードのオプティマスの隣に原型のメガトロンがいた。
メガトロンは私の姿を見下ろすと、不機嫌そうに表情を歪めた。
「俺がいたら不都合か」
「そうじゃないわ。ただ…珍しいと思って」
オプティマスとメガトロン。オートボットとディセプティコン。かつては対立しあっていた関係だ。
それが並んでいるのを見ると、やっぱり感慨深いものがある。
「平和になったものだ」
「そうね。平和になったわね」
「微笑ましい表情を俺に向けるな。忌々しい」
オプティマスと話している私を見下ろし、がしゃがしゃとタンクローリーにトランスフォームしたメガトロン。
クスクスと苦笑をこぼしてから、エスコートするように開いたトレーラートラックのドアに手をかけて車内に乗り込んだ。
†††23:45
2台の大きな車は高速道路を走り、川沿いの何もない道を進んでいた。
やけに目立つ車だが、幸い交通量は0に等しかった。
オプティマスの車内では通信を開いて、メガトロンからの声も聞こえるようになっていた。
「ねぇ、そろそろ目的を教えてくれてもいいんじゃない?
オプティマスとメガトロンが揃ってドライブだなんて。
明日は新年早々に嵐?」
「目的? 目的とはなんだろうか私はただマリアとドライブに行きたかっただけで」
「随分と早口ね。オプティマス」
私がそう言って助手席からハンドルを撫でると、ぐっと黙り込んだオプティマスが誤魔化すようにヘッドライトをチカチカさせた。メガトロンの溜め息が通信から伝わる。
〈何をやっているのだ、オプティマス〉
「………すまない」
「ねぇ、何があるの?」
〈黙って運ばれていろ〉
時刻は既に23:57を示している。今年も残り3分。というところでオプティマスは急にスピードを上げた。ガタンッと車内が乱暴に揺れる。
「ちょ、オプティマス! 法定速度を超えてるわ」
「もう少し辛抱してほしい。目的地が見えてきた」
「目的地……」
前を見ると、人気の全くない偏狭な土地で何やら大きな影が数個動き回っていた。
「あれ、ちょっと、ラチェットじゃない!
ううん、ラチェットだけじゃないわ。アイアンハイドも、ディセプティコンのメンバーもいるじゃない!
一般人に見つかったらどうするのよ」
「そこはレノックスに任せている」
「大佐もあの中に?」
〈そういうことだ。どうせ、ここまでくる人間はめったにいないだろう〉
みんながいる場所に辿り着き、私はオプティマスから降りる。
なによ。みんなで新年を迎えるつもりならそう言えばいいのに。
後ろでオプティマスが立ち上がる音が聞こえて振り返ろうをしたが、彼は私の背中を指で押した。
「早く。マリアも中央に」
「? これからパーティでしょ?」
首を傾げた私に、近寄ってきたアイアンハイドが私の身体をひょいと持ち上げた。
アイアンハイドの肩にはレノックス大佐が乗っていた。
「マリア。オプティマスの肩に乗せて貰え。
その方がよく見える」
「見える? え? アイアンハイド、大佐、ちょっと、待って」
訳がわからないまま、私の身体はオプティマスに受け渡されて、彼の肩に座る。
彼から落ちないように、ぎゅうとオプティマスに掴まる。
下ではスキッズとマッドフラップがカウントダウンを始めていた。
ディーノとサイドスワイプがそれに交じって一緒にカウントダウンをしている。
時計を見ると、あぁ、今年もあと、8秒しかない。
バンブルビーが楽しそうに電子音を奏でていた。彼のラジオからもカウントダウンの番組の音声が流れている。
見ると、憮然と立っているメガトロンの両サイドに、ブラックアウトとサウンドウェーブの姿が見えた。
スタースクリームはむすとした表情でメガトロンの後ろに控えていた。
ディセプティコン達はカウントダウンこそしていないが、オートボットに混じり、一緒になっていた。
オプティマスが肩にいる私に手を差し出しながら、いつもの優しげな声を響かせた。
「マリアもカウントダウンを」
「うん。オプティマスも。
さーん、にー、いーち」
爆音。
びっくりしてオプティマスの肩から落ちそうになる。が、彼の大きな手が私の身体を支えた。
「え、なに―――」
「「a happy new year!!!!」」
空一面に広がっていたのは、何十もの…ううん百近くある大量の『花火』だった。
大小のさまざまな色の花火が騒がしく空を彩っている。
真っ暗な夜空がいつの間にか色とりどりに輝く花火で覆い尽くされていた。
私は金属生命体の中でも背の大きなオプティマスの肩に乗っていたから、その花火がとても近くて。
手を伸ばしたら届くかもしれないんじゃないかと思えた。ちょっと、火花が怖いとも言えるけど。
「オプティマス! これどうしたの? 計画したのは貴方?」
「いいや。私ではない。
最初に言いだしたのはサイドスワイプで、計画を始めたのがジョルト。
それが大きくなって、ラチェットを始め、キュー、ショックウェーブ、サウンドウェーブ。それにレッカーズが協力して『花火』を作った」
つまりはオートボットやディセプティコンの研究者に、さらには技術者も集まって、揃いも揃って年末のこの忙しい時期に花火を作っていたのね…。
今、挙げられたメンバーを見ると、自分達の作った花火の出来は満足らしく、それぞれに空を見上げていた。
オプティマスと一緒に空を見上げながら、私はにっこりと微笑んだ。
「気に入ってくれたか?」
「もちろん」
空にはまだ花火が上がっている。少し、本数が少なくなってきていたが、それでもまだ賑やかだ。
私はオプティマスに寄りかかり、彼のボディを優しく撫でた。
「来年もよろしくね、オプティマス」
「あぁ、こちらこそ、よろしく。マリア」
(今年最後のドライブ。来年最初のドライブ)
「来年も、再来年もこれから先、ずっと貴方たちとこうやって過ごしていたい。約束してくれる?」
「あぁ、私のスパークに誓って約束は守ろう。私は未来永劫、君といたいからな」
「………オプティマスの言い方だと、プロポーズされたみたいだわ…」
「?」
「なんでもないわ。天然司令官さん」