【私は死にます】(メガトロン)(DOTM和解後)
響き渡る金属音。
隊員達の怒声と、驚く声と、様々な音を聞きながら、私は目の前の金属生命体を見あげていた。
「訂正しろ、マリア」
私の名前をその低い声で呼ぶのは銀色のでかい人型。
「メガトロン、私は事実を言ったまでだ」
メガトロン。こいつの名前だ。
実はこいつ、軽く言えば宇宙人。
ディセプティコンだかいう軍のリーダーで、車に擬態できる金属でできた生き物。
んで、金属のまま人型になることができる優れもの。ただし大きさと、あと性格に難あり。
今だって私のすぐ横にブレードを突き付けてやがるから、現状証拠はたっぷりあるだろう。
ディセプティコンは、オートボットっつー、オプティマス中心の軍と長年戦争を続けていた。
何だかんだ色々あって、和解して、メガトロン達ディセプティコンは故郷に帰る予定だった。
だが、まぁ詳しくは知らんがこいつは私が気に入ったんだが、玩具でも見つけたと思ったか、未だに地球にいる。
NESTの基地で両軍、区域を決めて、喧嘩はするが前より平和に暮らしていた。
今現在、命狙われてる私は全く平和じゃないが。基地内がざわつく中、メガトロン並にでかい金属達が私達に寄ってきた。
ファイヤーパターンが入ってるそいつはオートボット総司令官のオプティマス。
リーダーであるメガトロンを止められるのはオプティマスぐらいだろう。
私の上司のレノックス大佐も近くにいた。
「何があったんだお前ら! 引け、メガトロン!」
おぉ。さすが大佐。
このでかい奴らに命令できるとは…、やっぱり付き合っている年数が違う。
だがメガトロンは人間の話など聞かずに私を睨んだままだ。まぁ、私も睨み返したままだけど。
あまりにも私のすぐ側にブレードがあるからか、周りの生き物達も下手に動けない。黙ったままのメガトロンに私は言ってやる。
「何度でも言ってやるよ、メガトロン。
私は『死ぬ』んだ」
メガトロンの怒りの原因は私のこの言葉だった。
無敵に等しい彼等には、人類の脆さが理解できなかったようで、私はただそれを教えただけだというのに。
「お前は俺の玩具だ。勝手に死ぬなど許さぬ!!」
こいつには伝わらない。
いや、伝わっているからこそ認めたくないんだろう。
いつも人間を「蛆虫」だの「軟弱」だの言ってるくせに、私の事はその「軟弱」には入っていないのか?
私を救うべくオートボット軍がメガトロンを囲みだした。
このまま私とメガトロンの緊張状態を続けていれば、メガトロンはオートボット達に抑えられ、私は怪我一つなく助かるだろう。
「オプティマス! 手を出さないでくれ!
大佐も、止めないでくれ」
だけど、私はそんな利口じゃなかったみたいだ。
驚く周りに軽く手を振りながら、依然ブレードを引っ込めないメガトロンを見つめた。
私はメガトロンに言い聞かすように話し出す。
「メガトロン。人間は死ぬよ。
お前らに比べたら人間の脆さは考えられないだろうよ。
私も例外じゃない。いつかは死ぬさ」
「………許さぬ…!!」
大きなそのブレードは私の首を狙う。周りがざわつく中、私はそのブレードの冷たさを感じていた。
あと皮1枚。私かメガトロン。どちらが動いても穴があくだろう。
少し前にも書いた。私は利口じゃなかったみたいだ。
私はメガトロンに向かい、身を少し乗り出す。すると、当然のように私の小さな首からは赤い液体が流れはじめた。
メガトロンがうろたえたようにブレードを僅かに引くが、そのブレードすら私は掴んで見せた。
同時に右手からも赤い液体。
この状態のまま彼がブレードを引けば私の指は綺麗さっぱり5本ともおさらばするだろう。
ブレードの動きは止まり、1mmたりとも動くことがなくなった。
止まらないのは、私が話す度に刺さる首元の剣先からあふれるもんと、私の指からあふれる同じ種類の、赤い液体。
「人間なんかすぐに死ぬよ。
現にあともう一歩私が歩けばこの剣が刺さり死ぬ。
こんな赤いだけの液でも流しすぎりゃ死ぬ。
お前らみたいに腕ぶっ飛ばされても、半身崩壊してても生きていられるほど丈夫じゃない」
そしてそれだけじゃない。
「お前にはわかりずらいかも知れないが、私はあと80年もすりゃあどんなに元気でも寿命で死ぬ。
いや、80年も持たない。あと30年に足らないくらいで私は今のようには動けない、よぼよぼの婆さんだ。
もう前線には立っていないし、我が儘な赤のフェラーリを追い回したり、悪戯な双子に構ったり、軍医の無茶なリペアを止めたり、師弟の騒ぎに付き合ったり、
お前の身体に飛び乗ったりは、出来なくなる。」
私の言葉にオートボットの何人かが、周りで軽く呻いた。全く、ディセプティコンの奴らより騒がしいじゃねぇか。
これでオートボットの方が正義だったとか、軽く疑う。
私は浅く笑いながらメガトロンを見ていた。見続けていた。
「私なんかまだ人間の中でも若いからいい方だぞ?
大佐なんかあと10年でよぼよぼだ」
「おい、俺はまだ若いぞ?」
レノックス大佐の言葉は無視。いい加減彼もおじさんだろうに。若作りめ。
まだメガトロンは黙ったままだ。
突き刺さるブレードからは血。
私の軍服を静かに濡らし始めていた。しっとりと重くなる軍服。意識が薄れかけるのは単純に貧血気味になってきているからだ。
そんな状態でも私は言葉を紡ぎ続ける。
「メガトロン。だから聞いてくれ。
私はすぐに死ぬ。お前達が生きてきた時間のほんの一瞬しか私は生きられない。
だから、私以外の、私よりもっと若い下の世代の話も、次の世代の話も聞いてくれ。
あまり我が儘ばかりいうんじゃあない」
私はこいつが、私の話しか聞かないのを知っている。
本当の最初に始まった事の発端はここからだった。
メガトロンの私の部下に対する態度があまりにも傍若無人に過ぎていたから、だから教えてやった。
人間はすぐ死ぬのだから。と。
私にだけ失着するのは、もうやめろ。と。
メガトロンが静かに話し出した。その声は、彼はまだ怒っていた。
「…ふざけるな。お前は俺のだ。
勝手に死ぬなど許さぬ」
「悪いが、無理だ。あと数年はいいさ。お前の面倒も見てやる。だが、それ以上は絶対的に無理だ。
……それでも気にくわねぇならこの剣を動かしちまえばいい。
お前には簡単だろう? あと少し、ほんの少し動かすだけだ。
それで私は死ぬ。ぽっくりだ」
お前が私を玩具だと、お前の物だというなら、お前のその手で壊してしまえばいい。
私だって嫌さ。
お前達と生きていけないのが、自分が人間でしかない事が仕方なく嫌だ。
でもそうは言えない。だってメガトロンは誰よりも我が儘だから。
私も我が儘になると、誰の手にも負えなくなっちまうだろ。
「……手を離せマリア」
メガトロンがやっと私の名前を呼んだので。大人しく手は離してやった。
するとすぐに離れるブレード。
首元の冷たさは無くなった。
あんまりにも、あっさり引いた事に驚いていると、今度は違う金属が私に当てられた。
「メガトロン…?」
驚いた。
近付いてきた金属はあのメガトロンのでかい頭だった。
あのメガトロンが、あのディセプティコン破壊大帝が、人間の私の目の前で膝をついて、私に頭を寄せ抱きしめている!
こいつにそんな気遣いが出来たのかと疑うほど、メガトロンは優しい力加減で私を抱きしめる。
周りのオートボット軍はもちろん、レノックス大佐達人間、見物程度に見に来たディセプティコン軍達にまで驚愕は広がる。
それぐらいびっくりしたんだ。
私が驚きすぎて黙っていると、メガトロンが話し出した。だが、きっとこれは彼の独り言だろう。
他の誰にも聞こえないであろうその声を、私だけが静かに受け止めていた。
「……許さぬ…。
お前が死んだら憎んでやる…。
誰よりも憎んで、怨んで、俺のスパークに刻み付けてやる。一生…憎み続けてやる」
彼らのスパークは、私達でいう心臓。
一生憎み続けるとは…。こいつは一生、私が死んだあとも私を忘れない気か。
嫌な気はしない。それはいいかもしれないとすら思える。
こいつの記憶のほんの一部分でも、ずっと私が存在していられるなら。
まやかしに過ぎないはずなのに微かに私も「スパーク」が揺れたような錯覚に陥る。
本当はいたい。こいつと。ずっと。永遠に。でも痛い。
いたいのに痛い。痛いけどいたい。現実はいつだって重い。
自然と零れる笑い声。私もメガトロンを抱きしめてやった。
まわりきらない腕。硬く尖った身体。冷たい金属の肌。決して人間の作りではあり得ないその身体。
私は人間でしかないし、メガトロンは人間ではない。
「はははは。お前、どこでそんな遠回しな言い方覚えたんだ? 全く、似合わないな」
「黙れ、愚か者が」
呟くもメガトロンが歯を食いしばっていたのが見えた。あぁ、こいつも悔しいのかな。
私と生きられない事をメガトロンも悔しがっていれば、いいのに。
それは愛かと聞きたくなる。自惚れたくなる。だが聞かない。聞けない。
これ以上の痛みにはきっと、堪えられないから。
「お前が死んだら俺は故郷に帰る」
「はは。破壊大帝お帰りか。
帰る時には死んだ私の遺体も持ってってくれ。火葬、埋葬、自然葬でもない宇宙葬だ。中々いないだろ?」
茶化してみる。死んでもなお、お前といたいからだと言ったらお前は笑うだろうから。
「………わかった」
今までにないくらい素直なメガトロンの言葉。
それは私がいつかは死ぬというのを認めた言葉。やっと、わかってくれたのだろうか。それともわかったふりだろうか。
メガトロンの身体が離れていく。赤い目が私と一瞬合った気がした。怒っているような、泣き出しそうなその赤い瞳は、私はずっと忘れることはできないだろう。
そのままメガトロンは何も言わず、ビークルモードになり、自軍の区域の方に去って行った。
「マリア! 大丈夫か!?」
心配性の大佐が私に駆け寄る。何言ってるんだよ、レノックス大佐。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫に決まってる。
「酷い血だ…、軍医を」
「大佐、必要ありません」
「必要ないわけないだ、ろ…う」
怒鳴り振り向いたレノックス大佐が止まる。
私の顔を見て、目を丸くして。そんなに酷い怪我なのだろうか。いや確かに血が足りなくてふらふらし始めているが…。
「おい大丈夫か!? 怖かったのか!?」
大佐が私の頬を拭う。
おかしい。顔は怪我していないだろ。
ぽたぽたと軍服を濡らしていく赤い血に、透明な物が混ざる。それに気付くと、私は大声で笑いそうになった。
これは『涙』だ。
涙があふれている? 泣いてる。誰が? この私が?涙。ということは私は今悲しかったのか?
首と、手と、あと怪我してないはずの胸が痛みだす。痛すぎて頭までおかしくなりそうだ。
私は馬鹿だ。
頭じゃわかっていても身体はどうも弱いらしい。
こんなにも生きたいだなんて、自分がこんなにも生に執着していたなんて。
あいつと生きていたい。なんて馬鹿だ。大馬鹿もんだ。
止まらない涙をどうにかしたくて、目元が赤くなるまで拭っていたのに、次々あふれる液体におかしくなりそうだ。
(あぁ…好きだ。好きなんだ。
私、メガトロンが好きだ。一緒にいたい…)
それは叶わない。
知っているよ。種族の違いってやっぱり大きすぎるんだ…。
「いたい」
呟き、私はレノックス大佐に寄り掛かった。貧血のふりして、運んでもらおう。
(私は死にます)
俺の玩具はすぐに壊れる。
だから壊れないように必死に、慣れないながらも丁寧に扱っていたのに。
なのにあいつが俺に現実を突き付けやがった。何故か、スパークが弾け飛びそうだった。