ふわふわの髪に静電気を纏わせてさらにふわふわにさせたファイが、澪とにゃんくんを抱えて小狼と黒鋼の元へと降り立った。
澪の身体を優しく下ろすファイ。その時、彼の腕に軽いかすり傷があるのを見つけて、澪の表情が暗く沈んだ。

「大丈夫だよ」

何かを言おうとした澪よりも先に、ファイが澪の口元に人差し指を当てて微笑む。
む。と何も言わずに黙り続けた澪が不安げな表情のまま、あまり納得はしていない様子で「無茶はしないでくださいね」と言葉を続けていた。

そこで、ふと周りを見ると、城の周りに集まっていたプリメーラのファン達が、皆、男ながらに大号泣していた。当のプリメーラは今来た笙悟も何やら揉めているようだ。
事情がわからない澪はひとまず、近くにいたファン達に声をかける。途端ファン達は一斉に話し出した。

「みなさん、どうして泣いているんです?」
「プリメーラちゃんは、あのリーダーが好きなんだ!」
「けどリーダーは遊んでくれなくって寂しいんだ!」

澪が首を傾げる。アイドルならば通常、恋愛関係の話は隠そうとするのではないのだろうか。澪はもう1度問いかける。

「どうしてみなさんは知っているんですか?」
「プリメーラちゃんが公表してるから!」

ファンの1人が黒鋼に向かって「これを見てくれ!」とマガニャンと書かれた分厚い雑誌を投げつける。ぱらぱらと開いた黒鋼が記事を読んでいる様子を澪がうんと背伸びをしながら、覗きこんだ。
が、どうやらそこには忍者漫画が描かれてあり、プリメーラの記事があるわけでは無さそうだった。

「黒鋼さん、そのページ違くないですか?」
「…………面白い」
「そういうの好きそうですね」

呟いた黒鋼に澪は苦笑を向ける。まわりでは「でもかわいいんだよー」と悲しみが増幅されている。そしてその遠くではプリメーラと笙悟が未だ言い争っていた。

「俺は学校と実家の手伝いで忙しいんだよ! 今も配達中だったんだぞ!」

笙悟は『浅黄酒店』と書かれたエプロンを前に突き出し、自分の忙しさをアピールする。どうやらこの辺も彼のナワバリ内のようで騒ぎを聞きつけて駆けつけたらしい。プリメーラはもはや半泣き状態だった。

「でも、寂しいんだもーん!
 だから笙悟くんが気にいったって子をチームごと、うちのファンクラブに入れたら、その子に会うついでに遊んでくれるかな―って!」

プリメーラがそう言って正義を指差す。「あほか。違うし」と呟く彼に、プリメーラは更に泣きだす。

「可愛いなぁ、プリメーラちゃん」

恋する女の子だ。と、澪は頬を染めながら、きらきらとプリメーラを見つめる。誘拐された方の身であるが、理由を聞いてしまうとあまりの可愛らしさに彼女のファンになりそうだ。

「小狼ー! 小狼ー!」

そこで、モコナが小狼を呼んでいるのに気付いた。
小狼が上を見ると、モコナがめきょと目を開いたまま、ぴょんぴょんと必死に跳ねていた。

「モコナ! その目!」
「ある! 羽根がすぐそばにある!」
「どこに!? 誰が持ってる!?」

小狼が大声でモコナに聞く。モコナは慌てたように跳ね続けていた。

「分かんないー! でもさっき、すごく強い波動感じたのー!」

言葉を聞いてファイが首を傾げる。

「やっぱり巧断が取り込んでるのかなぁ」
「しかし、強くなったり弱くなったりするってなぁ、どういうことだ?」

黒鋼が不思議そうに口にすると、小狼はモコナから澪達に向き直る。

「巧断は憑いている人を守るものだと空太さんは言っていました。
 だから1番強い力を発するのはその相手を守るため」
「戦って見ないと分からないって事です…か」

不安げな澪が結論を言うと、小狼は頷いた。

笙悟が小狼に声をかけた。

「俺が余計なことを言っちまったせいで、迷惑かけて悪かったな。シャオラン。
 けど、気にいったってのは本当だぜ。おまえ強いだろ。腕っぷしが強いとかじゃなくここが」

笙悟は親指で自分の胸を強く押した。小狼は心が強いのだと。そう言い放った。

「だからお前とやりあってみたかったんだよ、巧断で」
「…分かりました。その申し出、受けます」

小狼が静かに笙悟へと返答をすると、呼応するかのように彼の隣に炎が立ち上り、狼の姿を象った。小狼は巧断と共に1歩前に出て笙悟と向き合う。
澪が不安そうに小狼を見つめるが、彼女が勢い余って前に出る事をファイが止めた。笙悟も仲間達に手を出さないようにと呼びかける。

「READY! GO!!」

そして笙悟の合図と共に炎と水がぶつかりあった。互いの攻撃は空中で相殺され消えてしまうが、崩壊を続ける阪神城から大きな瓦礫が小狼の元へと降ってくる。
それに即座に反応した小狼は冷静に飛んできた瓦礫を蹴って、2つに割った。その身のこなしはとても軽かった。

にゃんくんを抱えつつ、はらはらと戦いを見守っている澪がぱちくりと驚きの瞬きを繰り返す。

「凄い…」
「かっこいー小狼くん」
「素直が取り柄のバカじゃあねぇようだ。おまえがただのふざけたヤロウじゃねぇってのも、見抜いてたみたいだしな」

黒鋼が挑発するように言い、何の事かわからない澪が、黒鋼とファイの顔を交互に見上げる。黒鋼の言葉を否定しないファイが笑顔のまま言葉を繋ぐ。

「うん。遺跡発掘が趣味の男の子ってだけじゃないね。まだ子供だけど、色々あったのかもね彼にも」

ファイの言葉を聞いて澪は1人寂しげに俯く。腕の中から澪の表情を見上げるにゃんくんが呟くように彼女の名前を呟く。

『澪さん…?』
「大丈夫。私も絶対に役に立つから」

にゃんくんを抱え、澪はしっかりと戦っている小狼を見上げた。
自分にも出来る事を探すように。使命感を抱えながら。


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