ふらりと売店に行ってきた帰り。僕はアズールくんを探す。
数個教室を眺めながらアズールくんを探している途中、色んな人に声を掛けられて、僕も笑顔で返事をする。
でも、声を掛けてきた子達に付いて行くわけではなく、少しだけお話してすぐに離れて行く。
少ししたらようやくアズールくんの姿を見つけて、僕は教室に入っていこうとして、入り口で一回だけ足を止めてしまう。
アズールくんはジェイドくんとフロイドくんと一緒に何かお話をしていた。
3人はいつも一緒に居る。幼馴染だし、なんだかんだ言いながら仲良しだから、変なことではない。
でも、理不尽な僕は狡いなぁと思ってしまう。
僕が絶対に得ることが出来ない、時間の長さを羨ましくなってしまう。
少しだけ彼らを眺めてから、両手で頬をむぎゅと解してから笑顔を浮かべて教室の中に入っていった。
†††
「これはなぁに?」
リベラはにこにこと笑みを浮かべながら、広がっている紙を1枚手に取って眺める。書かれている軽食類の名前にリベラはきょとんと首を傾げながら、紙越しにアズールの顔を見た。
アズールはリベラに見向きもせずに答えを返す。彼は手元に置かれた電卓を軽く叩きながらメモ用紙に何かを書き込んでいく。
「来月に行われるマジフト大会で出店を出せることになりました。
それの検討案です」
「食べ物屋さんにするの?」
「えぇ。今は何を販売するか悩んでいるとこです」
次に答えたジェイドの隣にひょいと座り、並んでいる軽食の名前を指先で追うリベラ。
「手軽に食べられるような、かつコストパフォーマンスが高いものをと思うのですが、陸の食べ物は興味深いものばかりで」
「ちなみに、こういう時の定番は何になりますか?」
「うーん、こういう時は、焼き鳥とか多いかなぁ。串に刺さってる奴」
鳥の獣人であるリベラからの提案に、アズール達3人は怪訝そうな顔をリベラへと向けた。アズールが珍しく気を遣うように問いかける。
「……定番を、とは聞きましたが、あなたはここでの出し物が焼き鳥でもいいんですか?」
「僕は気にしないかな。
僕は食べようとは思わないけれど、結構な人気商品だと思うよ。なんとびっくり美味しいらしいし」
にこーと笑ったリベラに対して、アズールもフロイドも嫌そうな顔をし、ジェイドだけがにこと同じ笑顔を返す。
リベラはアズールが握っていた羽ペンを取ると、書かれた軽食の名前達の一番下に勝手に書き込んでいく。
「屋台かぁ。それだったら僕はわたあめが食べたいなぁ」
すぐ後ろにいるフロイドに背中を預けて、リベラはぱたぱたと足を振るう。
フロイドはリベラの方へと体重を寄せ返しながら、リベラが零した言葉に首を傾げた。
「わたあめ? なにそれ」
リベラは疑問の声をあげたフロイドにはたた顔を上げて、ひとり納得するように頷いてみせた。
「そうか。海の中にはきっとわたあめはないだろうからね。
…ううんと、お空の雲みたいな、ふわふわな砂糖菓子さ。…実践してみるのが1番早いかな」
そう言ったリベラは珈琲に入れるスティックシュガーに手を伸ばし、胸ポケットからマジカルペンを取り出しながら、3人の顔を眺める。
「誰か火の魔法を使えるかい?」
「それなら僕が」
声をかけたジェイドにリベラは立ち上がって近付いて、マジカルペンを構える。
「じゃあ行くよ。そのまま火力強めでいてくれ」
そう言いながらリベラはジェイドが先に生み出した一抱え程の大きさの炎魔法の上で、風魔法を起こし、小さな竜巻を作り上げる。
その竜巻の中に這うように砂糖を零した後に、リベラは指先を器用に動かして、少しして竜巻の上に顔より一回り小さいくらいのわたあめを生み出した。
ふわりと出来たわたあめを摘まんだリベラに、近くで見ていた3人は興味津々に目を輝かせていた。フロイドが素直に感嘆の声を零す。
「すげー! トビウオちゃん!」
「あはは。はい、どうぞ。食べてみて。べたべたしてしまうから顔につけてはいけないよ」
リベラは摘まんだ指先に付いた甘味を舐めながら、きらきらと目を輝かせながらわたあめを食べるフロイドを見つめる。
フロイドが食べている横から手を伸ばして、アズールとジェイドもわたあめを摘まんで口にする。
「使用するのは砂糖だけなんですね」
「うん。色の着いたお砂糖を使えば、その色のわたあめが出来るよ。マジカメ映えもばっちり」
リベラの話を聞きながら、ジェイドはまたフロイドからわたあめを摘まんでくる。顔をしかめるフロイドがわたあめを遠ざけ、ジェイドがいつもの笑みを浮かべながら、手を伸ばし続ける。
苦笑を浮かべたリベラがもうひとつシュガースティックを手に取って、ジェイドに声を掛けてもうひとつわたあめを作り上げた。
じっとわたあめを見つめながら思考をまとめている様子のアズール。
「ですがこれでは価格設定を上げることは出来ないでしょう」
「う〜ん? 僕がお店で買う時にはこれぐらいしてたけれども、安かったのかなぁ」
とんとんと指先で手近の電卓を叩いたリベラに、アズールは目を見張ってすぐそばの50本入り300マドル程度のシュガースティックを指さす。
「原価あれだけなのに!?」
「凄いよねぇ。元はお砂糖だとわかっていても食べたいものねぇ」
頬杖を付きながらにこにこと微笑むリベラは、指先を振るいながら言葉を続ける。
「これとソーダを出すのはどうだろう? ソーダにわたあめを溶かして飲むととってもとっても美味しいんだ」
リベラはジェイドの方へと手を伸ばしてわたあめをひとつ摘まんで、口の中で溶かして楽しんでいる。
アズールは目の前のわたあめをじっと見つめながら、考えをまとめるように言葉を零していく。
「確かに夏場に飲料系はそれなりの売上が伸ばせそうですね…。
飲料系だけでしたら当日の天候に影響されますが、これもあれば臨機応変に対応出来るでしょう」
「暑かったらわたあめそーだで、寒かったらわたあめだけ?」
「そういうことです」
フロイドがにやにやと笑みを浮かべながら背中のリベラへともたれかかる。
「楽しみだねぇ」
「うん。僕もとってもとっても楽しみだ」