くるくるとマジカルペンを指先で回す。銀色の魔法石がきらきらと輝く。少しだけ魔力を込めると万年筆型のマジカルペンが徐々に伸びていく。
数秒すると僕の手の中にはちょうど箒の柄くらいの長さと太さになった杖が握られていた。
それをバトンのようにくるくると回し続けながら、僕は渡り廊下の柵へと足をかけて飛び乗る。そのままひょいと外へと飛び出して、箒に跨るのと同じように杖へと跨り空を飛ぶ。
朝食を食べてからアズールくん達と離れた僕はゆっくりと空へと上昇していきながら、学園の上空を旋回する。
遠く下の方にオンボロ寮の周辺を見渡してから、探し物はメインストリートの辺りを歩いていることに気が付いた。
上空で停止した僕はじっとその姿を見つめる。あそこからここまではだいぶ距離がある。普通の子になら見つかりはしないだろう。
現に僕の探し物達は僕に気が付くことなどなく、少し見つめていると何やら炎が上がった。
突如として上がった青白い炎を見つめてから、どこからかすっ飛んできた学園長を見つける。
僕はまた空を旋回して、空の上で目を閉じる。涼し気な風が僕の頬を撫でる。
今日は、良い日になりそうだ。
†††
日差しが差し込み始めた教室にはカーテンが閉められていた。
授業前の教室内は集まった生徒達の雑談の声でがやがやと賑わう。
その賑やかな声に交じって、ガラス窓を外側から叩く音がして、窓近くに座っていたジャミルが視線を上げた。
窓に何か当たったのだろうと対して気にしないで居たジャミルだったが、数秒経った後に音が繰り返されたことによって、怪訝そうな顔をした彼は立ち上がり、カーテンを開ける。
そこには杖に跨ったリベラが窓の外でふわふわと漂っていた。
「リベラ?」
「ハーイ。リベラだよ」
驚きの表情を見せるジャミルと、そんなジャミルと顔を合わせてにっこりと笑顔を浮かべるリベラはひらひらと手を振っていた。
ジャミルが窓を開けるとリベラはその隙間から身体を滑り込ませて教室の中に入ってくる。小柄なリベラだからこそ入れたが、リベラよりも大きな身体を持つ生徒であれば窓から入ってくるのは難しいだろう。
杖を振るって元のマジカルペンの大きさに戻しながら気軽に返事をするリベラに、ジャミルは肩を竦めさせながら同級生の奇行に呆れの視線を向けた。
「一体どこから来るんだ、キミは」
「あははー。近道さ。
ありがとう、キミのお陰で僕は遅刻せずにすんだよ」
にっこりと笑顔を浮かべて、ジャミルにお礼を告げたリベラはきょろきょとと辺りを見渡してアズールの姿を探して見つけ出す。
「やぁ、アズールくん」
何のこともないようにアズールの隣に座ったリベラに、アズール自身もたいして驚いた様子は見せずに机の上に教科書を出していた。
「おや。遅刻してくるのだとばかり」
「ぎりぎりセーフで良かったよ。クルーウェル先生のBAD BOYは好きじゃないもの」
リベラもそう言いながら教科書を取り出して、そのついでと言わんばかりに鞄からチョコレートも取り出して口の中へと放る。
もごもごと口を動かしながら、リベラは自身が遅刻しかけた理由をひとりでに話し出す。
「さっき下で面白いことを見つけて、確かめに行っちゃったんだ」
「へぇ。何があったんです?」
リベラへと視線を向けたアズールに、リベラはにこにこと微笑みを浮かべながら話し始めた。
「昨日の入学式で元気していたミミズクくんがいただろう? ほら、アズールくんが追い払った賑やかな子」
「ミミズク…? …あぁ、あの狸ですか。学園長が追い出したと思ってましたが」
「それがね、昨日寮分けがされなかった新入りクンと一緒に学園の雑用係になったみたいで、ひとりと1匹でオンボロ寮で暮らすことになったみたいなんだ」
「オンボロ寮に」
短くアズールがそう繰り返す。リベラも短く返事をする。アズールはぱらぱらと教科書を眺めながら、リベラはきょろきょろと視線を忙しなく動かしながら。ふたりは視線を合わせないまま、確かに会話を続けていたが、リベラは視線をアズールへと向ける。
「そう。一昨日までは空いてたはずのオンボロ寮に」
リベラはそう言いながらにっこりと笑顔を浮かべた。が、目は全くもって笑ってはいなかった。アズールも軽く笑みを返しながらリベラの言葉の続きを促す。
「で。その子達がね。今朝、メインストリートにあるグレートセブンの石像を炎魔法で焦がしたみたいで。今、ちょーっと石像の方を見てきたんだ。
そうしたら本当にハートの女王サマの石像が焦げちゃっててさ。学園長が修復しながらずぅっと嘆いていたよ」
くすくすとご機嫌そうに笑うリベラは頬杖をつきながら、またご機嫌そうにチョコレートを口にする。
「オンボロ寮。また空くかなぁ」
「その様子でしたら時間の問題かもしれませんね。気長に待ちましょうか。
少し掃除でもされていれば好都合です」
「お掃除くらいなら僕も頑張るよ!」
ぷくと頬を膨らませてみせたリベラは、すぐにまた笑顔を浮かべて改めて頬杖をつきなおす。
「そうだねぇ。でも、とってもとっても大変そうだったら僕も何かお手伝いしてあげたいなぁ。
もしかしたら僕と仲良くなってくれるかもしれないし!」
本当に楽しそうに笑みを浮かべるリベラの横顔を見てから、アズールは視線を逸らしてから上品に笑う。
「本当、あなたのその性格の悪いところ、良いと思いますよ」
「どうしてだい。今の僕の会話で性格が悪そうなところはなかったじゃないか!」
「冗談ですよ。いいんじゃあないでしょうか。あなたに『オトモダチ』が増えるのはそれはそれは喜ばしいことですから」
アズールがそう言った時に、クルーウェルが教室内へ入ってきた。リベラはぴしと座りなおして、クルーウェルへと視線を向ける。
「stay! 仔犬共。今日の授業で使う薬草の準備は出来ているだろうな?」
「あ」
小さく呟きを零したリベラの発言を、クルーウェルは逃さずにリベラへと厳しい視線を向ける。
「フィンチ! また忘れたのか?」
「えっと〜」
明らかに準備をしていない様子のリベラは視線を彷徨わせて、鋭い眼光でこちらを睨んでいるクルーウェルに対して何を言おうか必死に頭を回転させる。
そんなリベラの横、アズールがにっこりと笑顔を浮かべながら、控えめに挙手をした。
「クルーウェル先生。リベラさんの分は僕が事前に預かっています」
「アズールくん! わぁい、僕のお友達が優秀〜」
リベラは嬉しそうに両手を打ち合わせて、アズールを見る。
リベラはもちろんアズールに預けたりなどしていないのだが、アズールはリベラの分も余分に用意していたようで、机の上に2人分の薬草を出す。
リベラに疑いの目を向けつつも言及はしなかったクルーウェルが授業の説明を始めたところで、リベラはアズールにひっそりと視線を向ける。眉根を下げたリベラの表情は申し訳なさそうなものになっていた。
「ありがとう、アズールくん」
「また貸しひとつですよ」
「はいはーい」
小声で、だがしかしお気軽に返事をするリベラ。アズールもそんなリベラには既に慣れている様子でこれ見よがしに溜息をついてみせた。