『応援してるんです!02』

その時、運良く厨房に戻ってきてくださったアスヒさんに、涙ぐみながら彼女の手を握ります。
アスヒさんは驚いた顔をしながらも、次には優しく微笑んでくださいました。

「どうしました?」

私が落ち着くように優しい声を出すアスヒさん。ようやく一息つけた私は、クロコダイル様が大至急お呼びしているということを伝えます。
すると、アスヒさんは変わらずに微笑んだまま、その視線だけを警戒の色を乗せました。

「わかりました…。では、行きましょう」

クロコダイル様からの命令は「呼んで来い」ではなく、「連れて来い」です。

あの殺気溢れるクロコダイル様には近寄りたくない私ですが、私も1度はアスヒさんと一緒に行かなくてはいけません。
アスヒさん先導の元、再びクロコダイル様のお部屋の扉を開けると、思わず短い悲鳴をあげます。アスヒさんの視線が咎めるように私も見ました。

だって! クロコダイル様の隣にいたあの女が、見るも無残なミイラとなっていたんですもの!

「お呼びでしたか?」

アスヒさんはミイラの姿に一切怯えることなく、クロコダイル様に声をかけます。

クロコダイル様は何も言うことなく砂と消えます。ですが、次の瞬間、アスヒさんの隣に立っていました。
とても近い距離で主を見上げるアスヒさん。そんな2人を見て私は自然とドギマギしてしまいます。

お美しい2人の上司が並ぶと、彼女ら独特の空気が流れているような、そんな気がするのです。

呆然と2人に見とれていると、私は再度悲鳴を上げることになりました。

クロコダイル様が突然、アスヒさんの首に鉤爪を引っ掛けて引き寄せたかと思うと、右手でアスヒさんの身体をまさぐるようになで始めたのです。

アスヒさんの表情に部屋に入って初めての焦りが浮かびます。
顔を真っ赤に染めながら逃げようとするアスヒさんの、腰辺りに手が触れると、押し殺すような悲鳴がこぼれて、クロコダイル様の表情が怪訝そうなものにかわりました。

鉤爪が離れて、アスヒさんも数歩後ずさるようにして離れます。
アスヒさんはキッと目尻を上げて、滅多に見ない怒った顔を見せました。

「可愛らしい部下の前で何をするんですか!」
「それは?」

問いかけるクロコダイル様にアスヒさんの視線がゆっくりと女のミイラに移ります。
溜息をついたアスヒさんが再び背筋を正しながら話しだしました。

「……それと少し揉めまして。一週間もあれば塞がる怪我です」
「勝手な真似してんじゃねぇぞ」
「申し訳ございません」

深々と頭を下げるアスヒさんと、そんなアスヒさんを一切見ないクロコダイル様。
アスヒさんを心配する言葉もないまま、クロコダイル様は私達に退室を許可します。アスヒさんも何も言わないまま、もう一度頭を下げて、困惑する私を連れて部屋を出ます。

退室して少し進んだあたりで、アスヒさんが急に腰元を押さえながら壁に寄りかかりました。
私は慌てて彼女に近寄ります。気丈に微笑むアスヒさんでしたが、彼女の頬に流れた汗を見つけて私は不安顔。

「ちょっと安心して気が抜けただけですわ。
 クロコダイル様には隠しておく予定だったんですけれどね」

朗らかにそう言いながらも、怪我しているであろう箇所を辛そうに抑えるアスヒさん。
彼女は私がオロオロとしている間に、呼吸を整えて、またなんでもなかったかのように立ち上がりました。本当にお強い人です。でも、だからこそ私達は心配になってしまいます。

アスヒさんは未だ不安げな私に、にっこりと優しい笑みを向けてくださいました。

「自分ではやり返せなかったので、これで幾分すっきりしましたわ」

何があったのか私が問いかけると、アスヒさんは少し考えたあと、私にだけこっそりと囁くように教えてくださいました。

「指輪を取り上げられそうになって、それで」

アスヒさんがつけている指輪といえば、クロコダイル様から渡されたという赤い指輪しかありません。
はっと口元を押さえながらアスヒさんをキラキラとした瞳で見つめると、アスヒさんは苦笑を零して、口元にしーと指を当てました。

「内緒ですよ」

内緒、と言われてしまったけれども、このことはどうしてもクロコダイル様にだけは伝えてあげたい。
クロコダイル様が知ればきっと喜ばれるだろう。口には決してしないだろうけれど、それでも絶対に嬉しそうな顔をしてくださるはずだ。

私は2人の距離が縮まった所を見たい。絶対に、絶対にお似合いだと思うのに!

「駄目ですよ」

瞳を輝かせた私を牽制するように、アスヒさんがもう1度声をかけます。
頬を膨らませる私に、アスヒさんは苦笑を零して、おやつの時間にしましょうか。優しく声をかけてくださいました。


(応援してるんです!)

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