ただ、我慢が出来なかったんだと思う。
リアは常にいろんな感情を抱えていたし、その負の感情全てを彼女はうまく隠して『ブラック』としての家名を背負って生きていた。
でもその時はその負の感情を抱えすぎて、ただ我慢が出来なかったんだと思う。
そうでもなきゃ、彼女は、聡明な彼女は、シリウス・ブラックを見かけた途端に失神呪文で相手を吹っ飛ばすことなんかしない。
「テメェ!! 何すんだよ!!」
吹っ飛んで、壁に叩きつけられたあと、立ち上がったブラックがリアに掴みかかる。
隣にいたルーピンとペディグリューが必死にブラックを抑えていたが、ブラックの手はリアのローブの首元を掴み、彼女を締め上げていた。
だがそれでも、リアの表情は変わらない。
普段見ないような底冷えする凍った瞳のまま、ブラックの瞳を静かに睨んでいた。
「何するの、は貴方の方よ。
私の友人を傷つけるなんて、許さないわ。絶対に。
例え、貴方が相手だとしても、私は、赦さない」
リアの言葉にブラックは一瞬怯んだようにも見えた。が、手を離せずにいるようだった。
「リアを離せ、ブラック」
そして僕はブラックに向かって杖を突きつけていた。
リアのローブの首元を締め上げるブラックと、そのブラックを抑えようとしているルーピンとペディグリュー。さらにブラックに杖を突きつけている僕。
いつの間にか廊下には野次馬が増えていたが、あいつらは「またグリフィンドール生とスリザリン生が喧嘩している」程度にしか思っていないのだろう。
これはもう、そんな、簡単なものじゃないのに。
ブラックは横目で僕のことを見ていた。強く噛み締めた口からは犬歯が覗いていた。
「は。女に庇われてんのかよ、スニベリー」
「黙れ。リアから手を離せ」
僕がこいつらにからかわれてリアが我慢できなかったように、リアがこれ以上ブラックに傷付けられるのを見ていることなどできない。
頭の中ではどんな呪いをかければ、すぐ側にいるリアを傷つけないだろうかを考えていた。
「1人じゃ何もできなくて、泣きつきでもしたのかよ! だっせ」
「セブルスにそんなことを言わないで!!」
「だからなんでテメェが出てくんだよ! 黙ってろ!」
ブラックの怒鳴り声に怯んだのは、リアと、ブラック自身だった。
なんで、コイツが被害者みたいな目をしているんだ。リアを傷つけているのは、お前だろうに。
それが腹立たしくて、怒りを抑えることが出来なくて。
「ステュー…――」
失神呪文を掛けようとした僕が、宙吊りにされた瞬間、僕は逆さのまま下を見て、その忌々しい顔を睨みつけた。
「ジェームズ・ポッター!!」
いつの間にか現れていたポッターがくるくると杖を弄んでいた。
釣り上げられた僕を見て、また表情を険しくさせ、殺気立つリア。
「セブルスを降ろしなさい。ポッター」
「最初にシリウスに呪文を使ったのは君だと思うけれど。
まぁ、そのシリウスもレディに手をあげているというのは頂けない状況だけどね」
「減らず口。貴方も同罪よ。
今すぐセブルスを降ろしなさい」
「わかったよ。ほら」
ポッターは1度肩をすくめ、僕を乱暴に降ろした。と、同時にポッターはブラックにも声をかける。
「シリウスも。彼女から手を離しなよ」
「……………煩ぇよ」
ブラックはそう言いながらもリアから手を離した。抑えていたルーピンやペディグリューの手を払いのける。
そして、ブラックは僕達にそれ以上何も言わずに、ポッターすらおいて1人でグリフィンドールの談話室方へと進んでいった。
残された僕達。リアはもうブラックに視線向けずに、僕の傍に寄っていた。
その髪に隠れてしまってリアの表情は見えなかった。
「行きましょう、セブルス」
「だが、リア……」
「いいの」
僕が何かを問う前に、リアはただ肯定した。
リアの表情は見えなかった。
「もう、いいの」
苦しげな声に、僕は何も言えなかった。
その日からリアはポッター達と一切の会話をしなくなった。僅かに会話をしていたルーピンとも、ほぼ縁を切ったように思えた。
リアとシリウス・ブラックとの仲は今まで以上に悪くなる一方だった。
(That's what reality is like, isn't it?(現実ってこんなもんでしょ?))
希望さえ刈り取られてしまう。