サイバトロン星。

そこではオートボットとディセプティコンの戦いがずっと続いていた。
長命な彼らをもってしても、世代が変わり、子孫の代になってもなお、戦いは終わりを見せなかった。

何千、何万年と続いた激しい戦いのせいで、美しかった星は次第に荒野となり、今では見るかげもない。

オプティマス・プライムはその荒れた大地を踏みしめていた。
大地を見据える青く透き通ったカメラアイは悲しく、寂しげだ。

切り札でもあったオールスパークが宇宙の彼方へと消え、先の戦いで彼の師であるセンチネル・プライムも行方不明となってしまった。

彼はこれから、宇宙船『アーク』を出し、センチネルプライム、さらには失ったオールスパークを探す旅に出る事を考えていた。

幸い、敵の中心だったメガトロンも行方不明になって久しくなる。
航空参謀のスタースクリームも、幹部クラスを数名引き連れ、メガトロンの捜索に出ていると聞く。

サイバトロン星はディセプティコンの優勢で止まっている。
戦火はまだあちらこちらで上がっているが、抑えられないほどではない。

宇宙船を出すというならば、今、このタイミングしかないだろう。
そしてその旅は、オプティマス自身が仲間を選び、同行させる気だった。

だが。

オプティマスは荒れた地を進む。
オートボットの領地で、いや、このサイバトロン星全体で、唯一安全な場所へと向かっていた。

見えてきたのは荘厳な作りの城だった。
荒れていることには変わりはないが、ここだけは唯一、戦には巻き込まれていない平和な場所だ。

ここには『彼女』がいる。

さすがの『彼女』には、あのメガトロンも手を出さなかった。

その城にオプティマスは足を踏み入れた。

トランスフォーマーの中でもボディの大きいオプティマスが入ってもまだまだ広いその中には、無数の金属で出来た花が咲き誇っていた。

先代のプライムが生きていた時、何の変哲もない機械の花を見て、彼女は至極喜んだのだという。
その時に仕入れられた金属の花達が、手入れする者もいなくなり、野生化して一面に咲き乱れたのだ。

オプティマスはその花達を踏みつけてしまわないように気を配りつつ、奥の大広間へと向かう。
広間には、玉座とも思える金属で出来た椅子があり、この星では希少な毛皮で出来たトランスフォーマーサイズのマントが敷かれていた。

その中に、埋もれるようにして、オプティマスの手の平よりもまだ小さな『生命反応』があった。

同じく毛皮で出来た小さなマントに包まれた白い肌は、金属ではありえない柔肌。
流れる髪も、その小さな手も、抱え込んでいる足も、トランスフォーマーではありえない構造をしていた。


彼女の名前はスピカ。


このサイバトロン星にいる筈もない、いられる筈もない『人間の少女』だった。


†††


オプティマスはその玉座にそっと近付いた。マントに包まった少女は眠っているのか、身動き一つない。

彼女は有機生命体になくてはならない『呼吸』を必要としていない。
つまりは胸の上下もなければ寝息も聞こえないのだ。

死んでいるのかと、不安になるオプティマスがスキャンをかけたが、感じられた暖かい体温に肩を撫で下ろす。

毎回、スピカが眠っている度に不安になっている気がする。
片隅でそう思ったオプティマスが苦笑を浮かべながら、スピカの閉じた瞳を見つめた。

話をしたかったのだが、寝ているならば。と、オプティマスが立ち上がった時に、スピカが小さく声を出した。

「……オプティマス? どうかしたの…?」

スピカは目の前にいるのがオプティマスだと分かり、小さな声を出した。オプティマスは再び王座の前で片膝をつく。

「すまない。起こしてしまった」
「ううん、いいの。お昼寝ばかりで退屈だったから」

小さく欠伸を零すとスピカは身体を起こし、トランスフォーマーサイズの大きな玉座に腰をかけ直した。

肩から滑るマントを直し、スピカはまっすぐにオプティマスを見上げる。

オプティマスはスピカと目線を合わせるためにも片膝をつき、敬うように頭を下げた。少女が静かに、もう一度聞いた。

「オプティマス。どうしたの?」
「話がある。スピカ。
 …………一緒にサイバトロン星を出る気はないか?」

スピカはぱちくりと大きな目をしばたかせたあと、オプティマスの青いカメラアイを覗き込んでいた。

オプティマスが悩んでいたのはこの少女の事だ。

サイバトロンに住む、唯一の有機生命体。
先代プライム達に愛されていたスピカは、彼らがいなくなったあとも、王座の証として狙われていた。

かろうじてオートボット軍が欺瞞の民であるディセプティコン軍よりも先にスピカを保護することが出来たが、やはり、このままサイバトロン星に置いておくには心配だった。

オプティマスは小さなスピカを見つめると、彼女の答えを待った。
了承はすぐ降りる。と思っていた。が、沈黙を保ったスピカがやがて1つの疑問を彼へと投げかけた。

大きな瞳を眠たげに擦りながら、スピカは首を傾げる。

「この星を捨てるのね? 『プライム』」

少女は玉座から司令官を見つめていた。司令官は深く深く深く黙り込んでいた。

いつか必ずオールスパークを見つけ、この星に戻ってくると、仲間達にはそう語った。
だが、実際にこの広い宇宙でオールスパークを見つけられる保証などどこにもない。長い旅になるのだろう。

その長い期間、司令官である彼がサイバトロン星を空けておいて、本当に星は大丈夫なのか。

彼女は王座に腰をかけたまま、彼に問うた。

「教えてオプティマス。今の戦況は?」
「…………」
「私に隠す必要などないわ。それにここには誰も来ない」

深く黙り込んだオプティマスに、スピカは容赦なくそう言い放った。オプティマスはゆっくりと発声する。

「オートボット軍の戦況は決して良くはない」
「随分曖昧な言い方をするのね」
「君は、厳しいな」

オプティマスは思わず苦笑を零した。司令官という立場上、劣勢であるということは口にはしたくない。だが、スピカは険しい表情でそう言った。
そしてそれから、スピカは僅かに心配そうな表情をしながら、小さな微笑みを見せた。金属のパーツではなかなか出来ないその表情を見つめたオプティマスは、彼女の身体に手を伸ばした。スピカは大きな手に乗る。

オプティマスとスピカの視線の距離が縮まった。

「サイバトロン星を捨てるつもりはない。ここは私の故郷だ。
 だが、この故郷を出ないままではオールスパークという希望を見つけることが困難なのだ。
 確かに長い旅にはなる。だが、必ず帰って故郷を、美しかった故郷を取り戻そう」

口を閉ざしたスピカは真剣なオプティマスのカメラアイを覗き込む。
2つは暫く静かに見つめ合っていたが、やがて、スピカは諦めたような微笑みを浮かべた。

「わかったわ。オプティマス・プライム。
 貴方の考えを私は信じてあげる。でも、私も一緒に星を出るかどうかは考えさせて」

少女は白い片腕を伸ばし、オプティマスの頬へと触れて、優しく微笑んだ。

そして小さな王女は瞳をゆっくりと閉じた。


(first. はじまり)


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