01
ここ数か月、プロヒーローの間でまことしやかに囁かれる噂がある。
曰く、それはピンチの時に現れる。
曰く、己以外には目視できない。
曰く、それには翼がある。
曰く、それに触れることはできない。
曰く、それには”個性”を増幅する力がある。
曰く、それがいれば必ず勝つ。
曰く、それは勝利と共に姿を消す。
当初、それを認識したプロヒーロは危機的状況による己の精神錯乱が見せる幻影だと思っていた。
しかし、プロヒーローが危機的状況で勝利を収めた際、それを見たという話が後を絶たなかった。
それの身体の輪郭はモヤで覆われぼやけているが存在感はすさまじく、しかし己のすぐ近くにいるにも関わず触れることが出来ない。プロヒーローたる己に力を与え、己に勝利を導いてくれる。
有翼であることに加えそれが女性体であることから、ヒーローたちはそれをこう評した。
ピンチの時には
*
「ふんふふ〜ん。ふふふ〜ん」
「なぁに、公子。最近すごい機嫌いいじゃん、何かいいことあった?」
「いや、書類提出を納期に間に合わせたはずなのにクソはげ係長からはぐちぐち言われるし、おいしそうって思って買ったコーヒーは麺つゆだったし、そして今日は化粧ノリが悪い!」
「最悪なことだらけじゃん」
「そうだよ!最悪なことだらけ!」
とくに麺つゆ事件はがっかりだ!あんなおしゃれなパッケージ誰しもが騙されてしまう。
いかにも、カフェでくつろぐアフタヌーンティーを、みたいな雰囲気の絵柄をだれが麺つゆだと思おうか。
「それなのに、なんで鼻歌なんて歌っちゃってたのよ」
「それがさ〜夢の中でそのストレスを発散してるんですわ」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
「突然のサンドイッチマンが私を襲う」
まあ確かに、私が逆に夢でストレスを発散していると言われるとそう返すかもしれない。
夢は所詮、脳内であらゆる記憶の情報を整理する過程に映像化したものだ。
関連性に乏しく結ばれたつじつま合わせの適当なストーリーに干渉することはできない。
「それで、つまり?」
「うーん。なんていうか、夢の中で私が誰かを無双状態にできて、敵をばかすか倒せる。から、すごい気持ちい。こう・・・・私が、なぎはらえ!とか、行け!ハッパカッターだ!って言ったあとに、アソパンマンがあんぱーんちっで敵倒れる、みたいな感じ」
「いや、全然わからん」
えー!なんでよこんなに分かりやすい説明の仕方ないよ!?と友達をぽかりとたたくと、ジャンルも混ざってて誰が倒したか分からん上になんでそんなことがストレス発散になるのよ、とぽかりとたたき返された。
「だって、逆転サヨナラホームランはかっこいいでしょ!」