夏影の下、隼の追憶
※とある聖杯戦争。
※オリジナルキャラ多数出演。
これは、私が最後に英霊として召喚された七日間の聖杯戦争の話。
誰かの呼びかけに応じて目を開けるとそこは、月明かりに照らされた白い部屋だった。聖杯にこの世界の情報を与えられた私は、直ぐにここがとある屋敷の一角にある部屋だということが分かる。開けた窓に靡くカーテンが風とともに静けさを運ぶ。
ところで、私のマスターは彼で間違いないのだろうか?
驚愕した顔に腰の抜けたその人は、青年……いや若しかしたらまだ若い少年の顔を持っていた。この世界でいうと十代半ばといったところだろう。彼から魔力はそんなに感じられない。魔術師というよりただの一般人が何らかの理由で私を呼び出した。というより、彼の手元に一冊の魔導書があった。そこから辿り着く答えは「試しにやってみたら成功しちゃった」系である。
なんということをしてくれたのでしょう。
彼は聖杯戦争がどういったものと知らずに
英霊を呼び出したのか、然も聖遺物無しで呼び出すなんて。彼の右手に宿る令呪を見て私は呆れるを通り越して逆に彼が天才に思えてきた。
未だ状況を理解していない彼に声をかける。
「サーヴァント・セイバー、貴方の召喚に応じてここに顕現する。マスター、貴方のお名前を伺っても?」
「えっ!? えっと俺の名前はイ、イヴァ……です」
「ではイヴァ、まず初めに教会に赴きましょう。そこで、魔術師でもない一般人の貴方が巻き込まれたこの"聖杯戦争"について説明があるでしょう」
「行くって、こんな夜中に? それに聖杯戦争って……」
「兎に角、説明はあとです。ああ、それと私の事はセイバーとお呼びください」
いつ私が召喚されたことに感ずいた魔術師たちがここを襲撃するか分からない。そのため安全圏である教会に行けば一先ずは大丈夫だろう。急かすように彼の手を取って立ち上がらせようとしたが腰が抜けた彼は思うように体が動かせなかった。
「ご、ごめん。腰抜けちゃって動けない……」
「マスター少し失礼します。どうか暴れないでくださいね」
「え、え、何するのセイバー……うわッ!?」
私は彼を抱え、所謂お姫様抱っこをした。
それからマスターは教会に辿り着くまで「降ろして!」やら「恥ずかしい!」やら散々喚いていたが暴れることは無かった。しかし、今は真夜中だから誰も見ないというのに少し可笑しなマスターだ。
教会から正式にセイバーのマスターと認められ、聖杯戦争が何たるかのレクチャーを受けた我がマスターは色々と草臥れてしまったようで言葉を零した。
「俺、本当にマスターとしてやって行けるのかな。俺の家が元々魔術師の家系だってことも知らなかったし、ましてや魔術なんて使ったことがない。それに、他のマスターに負けたら死ぬだなんて……」
彼の目が不安に揺れる。
確かに無理な話だ。自分でやってしまった事とはいえ参加したら死にますよ、と言われて、はいそうですかと簡単に受け入れることは容易ではない。
だか、聖杯戦争とはこういったものだ。
黄金の聖杯、最後に生き残った勝者のどんな望みも叶える願望器。彼が聖杯が欲しいと望めば私は全戦力を持って戦い続けよう。
「──それなら誓をここに。私の両腕はあなたを守り勝利を捧げる為に、私の両足は貴方の傍に駆けつけ聖杯へ導くための先導の翼であると。
このセイバー、命ある限り腕が無くなろうと足が折れても貴方の為に忠義を尽くしましょう」
──例えそれが、間違いだったとしても。
一人目は華奢なランサーを倒した。
そのマスターである女性、ジュリエッタ・リリッティオ。彼女は美人で頭脳明晰である彼女の指揮は難所だったが、一瞬できた隙をセイバーが逃さず彼女を斬った。初めて人が殺される瞬間を見た、吐いた。
二人目に闇夜に紛れたアサシンを倒した。
そのマスターである男性、オズワルド・マシェリー。世界中を旅する吟遊詩人である彼の魔術は魔笛に魔力を乗せて奏でるため、早々に魔笛を壊して彼も殺した。死体を見るのは二度目だった。
三人目は屈強なライダーを倒した。
そのマスターである男性、テオドア・ソリオ。彼の巧妙な魔術で織り成すトラップ系の魔術は脅威だった。でも、セイバーの俊敏さには適わなかった。俺の親友の死は、呆気ないものだった。
四人目は可憐な少女のアーチャーを倒した。
そのマスターである少女、東雲命。時計塔と呼ばれる場所で秀才少女と謳われるだけあって彼女の呪術は恐ろしかったが、感情が不安定な彼女はほぼ自滅に近い状態で自分自身に呪いをかけて死んだ。もう、死体に慣れた。
五人目は毅然なキャスターを倒した。
そのマスターである女性、ニーナ・ニーチェ。有名な魔術一家の長女である彼女の聖杯にかける信念は最早呪いに近かった。でもそんな事俺には関係ない。セイバーは何も言わず彼女の首をとった。彼女の死体を乗り越えたら、聖杯まであと少しだ。
六人目に挑む前にセイバーに止められた。
彼女の顔は出逢った頃のように毅然としてはいなかった。
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