序章

「すぅ…すぅ…う、うぅ…」

――某日、とある昼下がり。いや、正確には既に日が落ちかけいる頃
偶々仕事が休日だった紫琴は自室…謂わば社員寮で規則正しい寝息と共に布団に包まっていた筈だったのだが…そこに一通の着信によってそれはぶち壊された
そして折角の至福の時間を壊された紫琴も当然不快になるわけで…着信先も恐らくあの男だろう…
もぞもぞと動き布団から頭だけ出し。

「…」

ピロロロン....ピロロロン....ピロロロン....pi

無機質な音に段々イライラが募り切ったのだ。この忌々しい着信音を。
そして、邪魔が消えたと思いまた布団に包まれようとしたが再び訪れる無機質音
酷く険悪な表情を見せて携帯を盛大に睨みつけて、携帯の通話ボタンを押して、電話の受話器を取った
"そうだ。こっちから留守電を入れれば諦めてくれるかもしれない"と、そんな甘い考えで受話口に耳を近づけた

「…ただいま電話にでることができませ」
《グッドアフタヌ〜ン。紫琴もう夕方だよー?社内にもいないし、私に内緒でどーこに
いるのかなー?》

思った通りだ。
全く休日ぐらい一人にさせて欲しいものだ。
いつも一緒、部屋も一緒、寝る時も一緒…これ以上共にする必要があるだろうか?このままだとノイローゼになるのではないか

「今日は非番だと云いましたよ?此方(わたし)」
《ん〜?そうだっけ?私昨日のこともう忘れちゃったからねー》
「昨日ではなくつい今朝の事です」

全く話が通じていなかったようで紫琴は思わず頭を抱える。この困った恋人に救いの手を差し伸べようとは思わない神の気持ちも分かる気がしなくもない

「ところで、貴方は今何をなさっているんです?」
《そんなの分かっているくせに〜これから私の可愛い可愛い奥さんに夕食作って待っているようにお願いするんだよ〜》

嗚呼、煩わしいったらありゃしない。どう考えたらそう云う経緯に至るのかが解せない

「太宰君、君の脳みそは花畑ですか。此方(わたし)が一度与謝野医師に代わり解剖して差上げてあげましょうか?」
《紫琴がやるなら私はロボットなりミイラなり何でもなってあげるよ。そうだ!これを期に私と心じゅ…》
「やらない」

きっぱりと断れば、連れないねえとかそんな紫琴も私は大好きだよとか完全に惚気けている

「あ、そうだ。私国木田君に用があったのだ。じゃあまたね〜可愛い奥さん、愛してるよ」
「…さようなら」

太宰の愛の告白は無視して彼方側が切る前に此方から切ってやった。
そして、安眠を妨害する邪魔物は消えたと思い再び布団に入ろうとした…のだが、

ピロロロン…ピロロロン……pi

「ご用件は?五秒で済ませてください」
《…太宰が川に落ちた》

…………てっきり太宰の折り返しかと思いきやそうではなかった。相手は国木田と云う男だ。
国木田は目に見えない威圧感を発する紫琴の要望に答え本当に五秒経たずに話してくれた。

話してくれた…のだが、用件が用件だ

「……此方は何も聞いていません此方は何も聞いていませ」
《阿呆、餓鬼か貴様は…話は後でする。兎に角、太宰めが見つからなければ仕事にならん。手伝ってくれるな?》
「因みに…仕事の内容は?」
《後で話す》


「…了解しました…」

非番出勤確定。


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