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__某日

世羅はこの日、社長室を訪れていた。

「何の用かな?」
「イエース!!Ms.世羅〜youはこれまで、Mr.来栖とMr.聖川をサッポートしてきましたね〜?その助力が彼らを動かしたのデース。Mr.来栖はジャンプの後押し、Mr.聖川は演技のアドバイス〜ううん…大いに結構!!最早編曲家ではありませんね〜Ms.世羅?」

「……今気づいたか。そうだな、最早僕はST☆RISHのマネージメントだと自負している…が、正確に言うと違うな。僕は何もしていない。」
「と、いいマスとぉ?」

「僕は只二人を見守っただけ。彼らの原動力を目覚めさせた訳じゃない。そこは大方七海君だろう。彼らがあんな風に輝かせられるのは七海君だけだ」
「oh…Ms.世羅。随分Ms.七海に対する評価が変わりましたネ〜いい事なのネ」

「別に…。彼女の意気を買っただけ。初対面のときは気に食わなかったが…彼女なりに成長したという事だろう。努力の賜物…というべきかな」

「HAHAHA!YOUはまだMs.七海の事をよく理解していないのネ〜。Ms.七海の事をアンダースタンドしたらこの任を解いて差し上げまっショウ!」

そう言うなり、シャイニーは社長室の窓に突っ込んで外に飛び出して行った。
無論、凡人には起こりえぬ気とありえぬ生命力の話だが。
世羅は暫くの間その見事までに叩き割られた跡が残ったガラス窓を凝然と眺めていた。

「七海君の事をもっと理解する…か」

そう呟きを残し社長室を後にすると丁度そこに破裂音を耳にし駆けつけた龍也とすれ違いなるも互いに話すこともなくそのまま去った。



「確かに僕はまだ七海君の事を理解しているつもりもないしこれといって話した事もないからな…。コミュニケーションが足りていない証拠か…」
「おーい!せーちゃーん!」

先刻の件で深く悩み込んでいた世羅の元に彼女を呼び掛ける明るい声が響いた。
当然この広い廊下で共鳴する訳であり聴覚が優れている世羅の耳にもしっかりと届いた。

しかし、自分の名を呼ばれた筈がどうしても自分の名ではない呼び方をされた気がするのは彼女だけだろうか。

__自分は早乙女世羅。
シャイニング事務所に所属する編曲家(…とスタッフ)
そして、世界に名が轟くシャイニング早乙女の養女だ。
決して…決してせーちゃんなどという何処ぞのマラカスを振っているいい歳したお兄さんが愛用する名ではない。

という事は、彼女を呼んでいるのは嶺二だろうか。
しかし、僅かながらも声のトーンが埜々高めな気がする。
いろんな思いがある中試しに振り返ると、最初に目に映ったのは案の定嶺二の茶髪ではなく燃える様な輝かしい赤。

「もー、やっと気づいてくれた!何回も何回も呼んでたのにぃーせーちゃん」

ほらな、言っただろう。
普段の嶺二ならばここで形振り構わず世羅の身体に飛び込んでくるのだ。
それをせずずっと呼び続けた彼は…

「君は、確か…い、」
「もー俺の名前まで忘れたの?ひどいなぁ。…まあいいや。ちゃんとせーちゃんと話すのもこれが初めてだし。…俺、一十木音也!よろしくねせーちゃん!」

そう言った彼は髪と同じ様な輝かしい笑顔を世羅に向けたのだった。

「…ところで一十木君」
「ん?なーに?」

「そのせーちゃんというのは…」
「ああ!この呼び名れいちゃんがいつも言ってるから俺も流れで呼んでみよーって…嫌だった?」

何と度胸のある子なのだろう。
先輩が呼んでいるその名を自分も"流れ"で呼ぼうというその心意気。
感服した。彼には恐怖という概念がないらしい。
しかし、まるで飼主に公園のベンチ付近に捨て去られた仔犬のような顔の様にされれば例え世羅と雖も戸惑いは生じる訳で…。

「…嫌、ではない」

と、咄嗟に否定してしまった。
だが、彼も彼で

「本当!?よかったあー」

と心底安心した様な口振りな為撤回が出来なくなってしまった。
嗚呼…まさか自分で首を絞めるとは予想していなかった。
世羅は遠い目で数秒前の自分を恨んだ。
これで、せーちゃんという呼び名が定着してしまった。

「あ、そうだ!せーちゃん。今度の休みにバザー&お化け屋敷を児童養護施設でやるんだけどせーちゃんも来ない?」

そう言って音也は世羅に一枚の紙を差し出した。
どうやらそのバザーのチラシらしいが。
世羅ふと気になったことがあった。

「まあ特に仕事もないから良いが…児童養護施設?
ボランティア活動でもしているのか?」

ただ純粋にそう聞いただけだが、何故かその事を口にした瞬間音也は笑い出した。
そのことに思わず世羅は首を傾げた。

「…何か笑いを誘う様な事を言ったかな」
「あ、いや違うよ。ただせーちゃんトキヤと同じことを言ってたからつい可笑しくなっちゃって…ごめんね」

"トキヤ"という恐らく人名であろう単語に一瞬小首を傾げるも呼び名からして音也の同僚だろうと判断した。

「俺、そこで育ったから…今居る子供達の少しでも助力になればなって…せーちゃん?」
「あ、いや、無知で差し出がましかったな。これは失礼した」

"そんなこと気にしなくて良いよ"と気さくに話しかけてくれる音也。
今迄はQUARTET NIGHTとの交流が多くメンバーの殆どが寡黙ということもあってか異性と話す機会もそうそうなかった。
同じ人間でも特性は人それぞれだと改めて知っただろう。

「せーちゃん、どうしたの?さっきからぼーっとしてるよ?」
「…いや、何でもない。バザーの件だが…これといった仕事が無いにしても何時社長から令が下るか分からないからな。時間があったら行くとしよう」
「あ、うん!せーちゃんが来たらきっと子供たちも喜ぶよ!」

そう言って走り去って行った音也。
一人取り残された世羅今彼が言った言葉を必死に解釈をしていた。
喜ぶ?
自分が来て?
何故だ。自分が来て何か得する様なことがあっただろうか?
寄付金?それだったら義父さんに頼めば何とかしてくれるだろう。
いや、寧ろ折角招待してくれたのだから険悪に考えては相手に失礼だ。

「喜ぶ…か。僕自身にそんな要素があるとは思えないが」



音也と別れて自室の方面に足を向けていると、前から高身長な男が歩いてきたのが見えた。
その雰囲気を一目で見て一言で表すならば、"寡黙"だろうか。
何事にも冷静な物腰で臨んでいるように見える。
彼方側の彼も世羅に気がついたのか駆け寄ることもなく、只彼女と距離が近くなった時にやっと口を開いた。

「…早乙女さん」
「ああ。…えっと、君は」
「一ノ瀬トキヤです」
「あ、ああ…君がそうか…」

何かに納得したような感じの世羅に当然不信感を持つ訳で。

「私が、何か」
「いや…先程一十木君と立ち話をしていたらそこで君の名を知ったものだから」
「音也と…ですか。実は先程私もその彼と話しましたね。行動パターンが一緒なんでしょうか」
「さあな。何やらバザーをやるみたいだが…」
「ええ、それも聞きました」

まさかここまで一緒だとは。
だが、彼が事務所にバザーのことを番宣しに来ているのならば当然だろう。
しかしここまで偶然が重なると笑いが込み上げてくる。
そう思ったら最後で無意識にか、鼻から空気が抜け口角が上がったような気がした。
一瞬自分の身に何が起こったから分からず、前を見るとトキヤという青年の綺麗な瞳が大きく開かれていた。
それを不思議に見ていると、暫くしてはっと我に返ったらしい。

「…貴女も笑うんですね」
「君、初めて話す筈なのにやけに失礼だな」
「いえ、そんなつもりでは…。只、差し出がましいかとは思いますが、早乙女さん、無表情は極力避けた方が良いかと」

急な助言に思わず"は?"と口が滑る。
しかし、彼は気にしていないようで真面目な顔してこう言った。

「笑った方が…女性らしく見えます」

そう言った後失礼しますと言って世羅わ通り過ぎ去って行った。
またもや一人取り残された世羅は今彼が言った言葉を理解しようと脳内で整理した。
結果引き出したものは。

「僕、一応性別は女なんだがな…」

▽バザー当日。

社長と龍也の反対を半端無理矢理押し切りやって来た件の児童養護施設もとい今はバザー開催場所。
入りはせず様子だけ伺い帰ろうとしていたが、あまりの人の少なさに正直驚いていた。
そういえば今日は駅前で大きなフリーマーケットを開催していたのを思い出す。

見るからに落ち込む子供達に少々打たれる所もあったのか世羅の表情も埜々暗い。
仕方なしに入ろうと思ったが、音也が明るい声で歌い出したのを聞いて思わず立ち止まる。

恐らく春歌が彼の為に作曲したであろう楽曲。
春歌が彼を理解しているからこそ生まれた曲。
理解…。
今朝シャイニーに言われた言葉が脳裏に蘇る。

『YOUはまだMs.七海の事をよく理解していないのネ〜』

やはり彼女を理解しなければ、彼女が彼ら(ST☆RISH)に向けた想いとそれを乗せた曲の素晴らしさも理解できない。
ここで自分は思い知った。
自分は何て無能なんだろうか。

下の者に指示をして面倒を見るだけでは上の者は務まらないというのに。

そんな自分に心底失望した世羅は顔を上げて今の現状を確かめようとすると、先程まで人の気配すら感じ取られなかったこの場所に今はたくさんの人で溢れかえっている上に何やらカラフルな熊も増えている。
一瞬何が起こったのか理解が追いついていかなかったが子供達がこちらに近づいてしがみついて来た頃にやっと我に返ることができた。

「なっ、何だ君達は!」
「お姉ちゃんが≪せーちゃん≫っていうひとー?」
「なっ、はっ?確かにせーちゃん…いや世羅は僕の名だが」
「やっぱりそうだ!音にぃからよくお姉ちゃんのこと聞くんだよー?≪せーちゃんはとても怖い人≫だって」

「一十木君!子供達に何を教えているんだっ」

子供達に何を言っているのかと思えばとんだ好感度のダダ下がりな内容ではないか。
思わず音也に向かって叫べば音也は軽くごめーんという仕草で何とか乗り切ろうとしたらしい。
甘いな。

「全く…ん?」

呆れていた世羅の女性の平均よりも少し高めにある視線に入ろうとピョンピョンと必死に飛ぶ子に目が行く。
そして見つめられた子はさぞ嬉しそうに目を輝かせていた。
世羅はそのこの様子に何か言いたいんだろうと悟り目線を少しでも合わせてやるために屈んで跪く。

「…こんにちは、」
「……にちは」

どうやら恥ずかしがり屋なのか最初の部分が口では発しているつもりなんだろうけど空気となって空に飛んで行った。

「…どうかしたか?その、僕をじっと見てたから…」

そう言うと彼女はまるで身に覚えがないように可愛らしく小首を傾げた。
別に世羅を見ていたつもりではなかったのか?
そうとなればかなり自分は自意識過剰になる。
いやしかし、彼女は自分の視界に入ろうと精一杯ジャンプしていた。
いや、待てよ。もしかしたらそういう理由をつけて自分を正当化しているかもしれない。
そう頭の中で考えているとその彼女が世羅が来ているジャケットの袖を引っ張ったのだ。

「…ぉねえちゃん…音にぃの彼女?」
「……は?」

やはり自分に何か言いたいんだろうという仮定は合っていたらしいが、内容がかなりませていないか。
そして何を持って音也と世羅が恋仲な関係だという大いなる勘違いを巻き起こしてくれたのだろうか。

「…いや、僕は一十木君の彼女ではない。あくまで先輩と後輩だ」
「せんぱいと…こーはい?」

世羅は簡潔かつ分かりやすく説明したつもりだったが完全に何それ美味しいの?状態だった。

「あっと…そうだな。知人。知り合いだ」
「しり…あい」

そこも少し怪しかったが、どうやら合点がいったようでゆっくりと首を縦に振る彼女に思わず安堵のため息が溢れる。


▽___事務所

「子供の世話も大変だな…」

いくら他人とのコミュニケーションを苦手とはいえ
子供達の相手すらできないのは最早重症に匹敵するだろう。
別れた後、音也に散々謝られてばかりだったが、正直そこまで気にしていない。
世羅も大人だ。
嘘も方便だと言うだろう。

「せーちゃん!」
「一十木君か…どうした」

前から音也が此方に向かって駆けて来た。
彼がいるということはどうやらバザーは終わったらしい。

「せーちゃん、今日はありがとう!子供たちせーちゃんに会えてすごく嬉しそうだったよ」

「嬉しそう…か。それは良かった」
「?うん、あいつらせーちゃんが思っていた以上に身長が高くて驚いたって言ってたよ」

ああ、確かに。
と、ここでは何故か納得してしまう。
まあ事実なのだが。

「そうか。…ST☆RISHの彼らも来ていたな。ぬいぐるみ姿で」
「うん。態々仕事を終わらせて来てくれたんだ。皆優しいよね、忙しい時に駆けつけてくれるって本当に嬉しい」

心底嬉しそうに笑う音也に世羅は驚いたような表情をした。

「?どうしたのせーちゃん。驚いた顔して」
「ん?…あ、いや何でもない」

"最近せーちゃん変だよ?"と音也に笑い含め言われたが強ち間違いではない。
寧ろ自覚が出始めている程だ。

「変か…そうだな。僕らしくない」
「そうかな?俺としてはこっちのせーちゃんの方が接しやすいけど」

「ああ…何せ初対面の僕は君にとって"怖い人"だからな。もしかしたらこちらの方が幾億分マシかもしれないな」
「うんうん。…ってだからそれはゴメンって〜!」

噎び泣きながらこちらに近づいてくる音也を尻目に捉え踵を返す世羅。
どうやら彼女としてはこれ以上の干渉は面倒だと踏んだのだろう。

「(…たまにはこういう日があっても良い)」

音也が背中越しに世羅の名を呼ぶも世羅はその声に応えることはなかった。
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