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大きな声で名前を呼ばれた世羅は多少面倒だと思いつつその場を立ち去ろうとするも近づいて来た林檎によって阻まれ、腕を引っ張られた。
そして、七海の前に立たされ自己紹介というよりも他己紹介をし始めた。
「ハルちゃん、紹介するわ。この子は早乙女世羅ちゃん。専門は編曲。本人はあまりやる気がないからこんなだけど。一応本契約しているわよ?でも大抵暇を持て余して寮内をウロウロしてるから何か聞きたいことがあったら捕まえるなり好きに使ってね♪」
まるで言うことを聞かない便利用品みたいな扱いが癪に触った為、林檎を軽く睨むが事実上、ほぼ正解だ。
そんな中、ST☆RISHや七海は世羅の名前に少し興味を持ったのかしきりに早乙女?と復唱している。
その反応を妙に苛立たせる世羅は七海を見下ろし「何」と問う。
その視線に焦った七海は咄嗟に首を横に振った。
世羅は軽く周りの彼らを一瞥して言い放った。
「人の苗字気にするより…自分の心配したら?」
その言葉の意味をST☆RISHの彼らは感じ取ったのか途端に警戒態勢に入る。
そして、その警戒態勢に気づいたQUARTET NIGHTは見守るように世羅の後ろに控えた。
思い沈黙の中、それを破ったのは外ハネの髪が目立つ長身の青年だった。
「それは…どういう意味でしょうか」
「…意味を理解したから君達僕を警戒したんじゃないのか」
見透かされている。
そう気付いたのは全員同時だった。
世羅は七海の顔をじっと見つめこう言い放った。
「僕は君の面倒を見るつもりはない。聞きたいことがあったら聞いてもいいけど必要以上に話し掛けるな」
「お、おい。そんな言い方しなくても…」
6人の中で一番背丈の低い帽子の少年が焦った様に宥める。
しかし、そんな事構い無しに世羅は無情に続けた。
「…僕はあまり人と関わりたくない性分でね。仕事をしないのは人との関わりを持ちなくないから」
「では…貴方は何の為に編曲の仕事を?」
紫髮の青年がまるで世羅が答える内容を見透かした上で問いた。
すると、世羅の視線は七海からチラリと紫髮の青年、一ノ瀬トキヤに移り変わり程なくして面倒臭いと言わんばかりに溜息を吐いて言葉を吐き出した。
「ただの気まぐ」
「やめろ!!」
気まぐれと言い終わろうとした時に帽子の少年、来栖翔がここ一帯に響き渡る音量で遮った。
世羅はその彼の姿を見た。
彼は今の彼女の発言に憤りを感じているのだろう。下手したら殴ってやりたい程に。
「七海!お前の担当、林檎先生に代わってもらえ!仮にもこの人が担当だとしてもこんな怠けた奴に見てもらったらお前の作った曲がダメになっちまう!」
「…ふっ、酷い言われよう」
そう言うなり世羅は振り返り後ろにいた3人に同意を求めるも返ってきたのはあまり期待していた言葉では無かった。
「ははは…それはせーちゃんの言い方の問題でしょ」
嶺二が相変わらずの彼女の態度に苦笑いするしか無かった。
「それにしても心外だね。怠け者とは」
「実際問題そうでしょ。セラの場合」
誰もフォローしてくれないという無情な現実に思わず肩を竦める世羅。
怠け者とは聞き捨てならないが、やはり藍の言った通り実際問題翔が言っていることは正論である。
しかしながら…
「確かに、僕は怠惰的だが…曲に関しては怠けた覚えはない。言った筈、仕事での人とのコミュニケーションが嫌だって。それは曲とは無縁でしょう?」
「で、でもっ、音楽は人との繋がりが持てる素晴らしいものです!きっと曲でも…一曲一曲それぞれの人との繋がりがあると思うんです!」
「それは君の持論だろう」
そう問えば、ハッとして黙る七海。
世羅は何とも見応えのないこの者たちを一瞥し今日何度目か分からない溜息を吐き出した。
「話にならない。やはり僕はかえ…」
「帰るな!」
鈍い音が室内に響き渡ったかと思うとその場で蹲る世羅の姿が。
その真上には拳を握りしめた状態で世羅を見下ろす林檎。
林檎は真下で蹲りながらも睨む世羅を睨みながら柄にもなく叫んだ。
「アナタ、音楽を何だと思ってるの!?プロを目指そうとしている彼らにプロであるアナタがよくもそんなことを平然と言えるわね!」
「っ、林檎…」
きっと、学園生活の中で林檎のこんな姿は目にしたことなかったのだろう。
ST☆RISHと七海は呆然と立ち尽くし凝然としてこの場面を見つめていた。
「アナタに彼らの気持ちが分かるの?アナタは只々自分の意見だけを述べて後輩の意見は無視するの?只下の者は上の者の指示や意見を尊重しろって?それが上に立つものとしての矜恃なら…上に立つ者なんて必要ないわよ」
林檎がはっきりと述べるその姿は教育者そのものであった。
しかし、暫くして殴られた患部の痛みが回復してきたのか蹌踉めきながらも立ち上がりこの場にいるの者たちを震え上がらせる勢いな鋭い視線を向け吐き出した。
「…偉っそうに。そんな事くらい分かってるよっ暴力教師!」
世羅は心底怒り、そう言う終わるなり踵を返して姿を消した。
「り、りんちゃん?」
赤髪の青年、音也は呆然としながらもなんとか口を動かすことができ林檎の愛称をおずおずと呼んでみた。
「龍也…あ、アタシ…せーちゃんに嫌われちゃったかしら!?」
「はっ?さあな。だが、教育者として暴力は頂けねえな」
龍也の発言に暴力じゃないと必死に訴える林檎だったがあれは教育のうちに入るのかはよく分からなかった。
1人泣け叫ぶ林檎を他所にST☆RISHは七海を囲んでそれぞれの意見を述べていた。
ある者は七海を慰める者、またある者は非情、無情、冷徹な彼女へ嫌悪感を現す者。
「七海、気にすんなよ。あの人は七海の曲を聴いたことねえからあんな事言えんだよ」
「…翔くん」
「それにしても流石に応えるなあー。あの発言は」
「ええ。プロなら尚更、あの発言は許せません」
それぞれが思ったことを口にしていると、
「でも、せーちゃんの言っていることは本当だよ?」
それを聞いていたQUARTET NIGHTの彼らが話に入ってきた。
嶺二は彼らに近づくなり世羅をフォローする。
それに続き藍も同意の言葉を語り出した。
「そうだね。確かにセラが人とのコミュニケーションを嫌うのは本当だよ。何でかは知らないけどね」
「…先輩たちはあの人の肩を持つんですか?」
訝しげな面で問いかける翔に反応したのは蘭丸だった。
「あ?勘違いすんじゃねえ。ただ事実を言っただけだろうが」
「それに、肩を持つって逆に何でボクたちがキミたちの味方しなきゃなんない訳?」
次第に互いの視線から火花が散り始めた所を見兼ねた嶺二が仲介に入る。
必死に互いの熱を覚まさせようと宥めると段々と冷静さを取り戻してきた。
すると、先程まで泣き喚いていた林檎が自身のハンカチを手に涙を拭き取りながら会話に参加してきた。
「そうよ、あの子は本当は良い子なのよ。只不器用なだけ。あと…言葉選びが下手なだけよ。それが原因で皆の機嫌を損ねてしまうこともあると思う。翔ちゃんが言う様に身勝手さと不真面目さから怠け者って呼ばれても仕方ない。でも、もしハルちゃんがどうしようもないって時、音楽面であの子程頼れる子はそうそう居ないわ。…だからこれだけは言える」
そう言って林檎は今頃一人怒りに任せて靴底を叩きつけて廊下を歩いているであろう彼女を思い描いてこう告げた。
「彼女の実力は本物よ」
"だから、どうかあの子を嫌わないであげて"
その言葉を発する林檎は保護者の雰囲気を纏っている様にも見え、考えようによってはまるで彼女の隠された真実を思ってその事を口にした様にも見えた。
マスターコース企画開始1日目____早くも大波乱を呼び起こす予感であった。