自殺主義者の独白


「太宰君、太宰君!何処ですかー!」

嗚呼、今日も聞こえる愛らしい彼女の音色(こえ)。
明らかに怒っているであろう態度と自分を求めている音色。
それでも良い。
彼女が自分を求めて来てくれるのならば。

しかし、素直に遭いたいから自分を探しているのではなく、大方理想主義者の指図であろうことに心底腹を立てる。

彼女は自分だけのもの。
誰にも指図をされる覚えはないし、させない。
そんな純粋無垢な彼女は自分の心中にある醜さを知らないだろう。

過去に見せた己の醜さとは別の、比べることすら不可能な程奥底の深い闇を抱えている自分など。

過去は振り返らない。
とは云えども、己が彼女に強いた事は両手の指には収まりきらない。

当時はよく分からなかった。
何時ものように自殺をしようと川に飛び込もうとした。
ここまでは日課通り。
この儘飛び込み川の流れとともに己は屍へと化する、そういう予定だったのだが、今日は如何してか飛び込む事すら出来なかった。

自分と同じ場所で同じ方角に目線を送り黄昏ていた。
その姿が美しく思え、何処か儚く見えた。
今考えれば、この時かも知れない。

己の中にある【自制心】という概念が跡形もなく散り散りになり張り詰めた琴線がか細い無機質な音を立てて崩壊したのは。

初めての感情。
初めての出会い。
初めての彼女への欲求。

それら全てを無造作に入れ混ぜ完成したのが【狂気】だった。
彼女の自由、居場所、家族。
それら全てを彼女から取り上げ、代わりに己が新たに彼女の居場所を差し出す。
他の人間との干渉など不必要。
代わりに己が常に彼女の話し相手となり、彼女を愛で続け傍に付く。

しかしながら、今となってはそんな狂気は何処へやらと他人事のように感じるし、彼女も今更思い返すなんてとあの美しく無邪気な笑顔でからかうのだろう。

嗚呼…彼女が愛おしい。
彼女に発見させる為に芝生で寝ていたが、気が変わった。
自分から彼女の眼前に現れよう。
そうすれば何処かしら彼女の琴線に触れ、隠さず怒りを己にぶつけてくるだろう
丁度好い。
宥める口実に彼女を攫って帰宅しよう。
そうしてじっくり宥めた後、今度は自分が思う存分彼女を愛でるという腹の中の計画だが…

「あ、…これも醜いと云うのかな?…ま、好いか」

この醜さは彼女を愛するが故なのだから。



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