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と或る昼下がり、珍しく依頼のない静けさのある探偵社の社員達は依頼がないから暇、暇だから眠たくなるというイコール付で船を漕いでいる者もそう少なくはない。

そんな社内に怒声が響き渡り暇人共に取り付く睡魔を撃退した。
こういったことではある意味勇者を意味するのだろうか。

「いい加減にして下さい!太宰君、此方の私物に発信器を付けるなと何度云えば分かるのですか!」
「えェ…だって紫琴が心配なんだもん。何か良からぬ輩に付いて行くンじゃないかとか…場所が分からなくなって迷子になってるンじゃないかとか色々」
「…此方からしてみればそれは心配ではなく只の侮辱です。此方を幾つだと思っているのですか」

そんなこんななやり取りが聞こえる中探偵社内でその一部始終を見ていた新人の少年、中島敦はふと過ぎった疑問を口にした。

「そういえば、結局お二人の前職って分からず終いですね。本当に以前は何処に勤めていたのでしょう」

その疑問を回答したのは隣で資料整理している谷崎であった。

「さァ…太宰さんは何をしてても異様に見えるし、逆に清水さんは異様な程何をしてても似合うからな…皆目見当もつかないよ」

そう云って笑う谷崎。
確かに彼の云った通り、太宰は何をしてても不真面目そうに見え一寸気を抜かすと川に飛び込もうとする異類の人物。
そして紫琴はそんな異類の人物とは真逆。真面目な性格が故、やること成すこと全てが完璧である。
彼らが同業していることすら今では不思議に思う。

「成る程…では、あの方達は何時から一緒に居るんでしょうか。見た所、かなり親密なご関係ですが…前職が同業だったからという理由でしょうか」
「んー、そうだね。そこまで知らないけど僕が入社時には既に太宰さんたちは探偵社に居て、今と同じ関係だったね。だからあの人たちが入ってから付き合い始めたってことはなさそう」
「おい、何時から貴様らは他人の色恋を捜査するようになったのだ」

唐突に背後から聞こえた地を這いずるような低音。
振り向かずとも分かる彼が発する殺気。
しかし、振り向かねば、振り向かねば逆に遣られる。
そう決心した敦だったが、谷崎が一歩先に振り向き殺気の正体、国木田に話かけた。

「く、国木田さんは太宰さんたちが入社してきた時には既に探偵社にいたンですよね?」
「ん?ああそうだが」

だから何だとでも云いたげな表情に気押されつつも必死に戦う姿は正に勇者だと敦は思う。

「そ、その時のだ、太宰さんたちの関係は」
「関係?そんなもの奴らは何時でも変わらん。俺が奴らの世話係を任された時もそうだ。毎度のこと太宰めは人目を盗まずに清水に擦り寄れば清水もそれに然程の拒絶はせずに寧ろそれに応える」

詰まり、俗に云うバカップルというやつであろう。
一般常識では有り得ない行動を取り周囲の人間を呆れされること。
この上ない位に彼らに相応しい。

「ねェ紫琴、もう帰ろうよ。私暇過ぎて如何にかなってしまうよー」
「あ、そうですか。では如何にかなって下さい。此方は今日の仕事は終わりですので先に帰宅させていただきます」
「え!じゃあ私も帰ろう」

じゃあの使い方がよく分からない。
何がじゃあだ。お分かりだとは思うが、彼は未だ勤務時間内である。
それを御構い無しにそそくさと資料や仕事場所の机を整理したりする紫琴の後を追う太宰に当然、国木田が黙っていない。

「太宰!貴様には依頼があるだろう!何をいけしゃあしゃあと任務放棄を口にしてるのだ!」
「厭だなァ国木田君、私と紫琴は一心同体なのだよ。だから紫琴が帰るのならば私も帰るのは当然だろう?じゃあそういうわけで」

「今度こそ首を切られるぞ貴様!そんな屁理屈で任務放棄する社員が何処に居る!な、おい待て、太宰!」

国木田の制止の声は虚しく散り、紫琴の跡をまるで尻尾を追いかけるかのような足取りで付いて行った太宰。
最早、誰も彼に救いの手を差し伸べる気は無いようだ。
階下まで追い掛けに行った国木田を他所に先程まで太宰たちのことについて話を咲かせていた者たちはというと。

「…敦君、悪いけど太宰さんの代わりに依頼…行ってくれる?」
「は、はい。分かりました」

純粋な子ほど大人の事情というものが分からないと云うが、今回のことについては如何やら純粋な子でも分かるほどの何とも云えない出来事な為敦は素直に肯定の意を示した。

某日、武装探偵社は今日も平和である。
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