「はっ、はあ……も、無理、ギブ……」
目の前には、力尽きたのか地面に突っ伏し肩で息をする女。汗を額に浮かべ、苦しそうに歪められた表情にふと我に返る。
「っと、今日はこれで充分だろ。とりあえず休め」
「はあっ……すみ、ません………」
「謝ることは何もないだろ。最初の頃に比べたら随分強くなったじゃねえか」
「でも、中原さん、息あがってない……」
「手前な、俺と比べるのがおかしいっての」
「あでっ」
しゃがみこんで、未だ座り込んだままのみょうじの頭をはたいた。
最初にみょうじが「体術を教えてください!」と頼みこんできたときは目と耳を疑ったものだ。確かに医療班内部で疎まれているのは前から気にかけていた。雑魚相手に闘う時、軽い傷でも作ればみょうじに会う機会が出来る、とわざと手加減してやったこともある。それがしかし、本人もこんなに気にしていたとは。
よく笑う女だと思う。みょうじのいる看護室に行くと、花が綻ぶような、それこそほっと安心したような笑顔を見せてくれる。そのくせ、先日の夢に魘された顔や、ふとしたときに見せる影を落としたような考え込んだ顔が、俺の頭から離れない。一体どうしちまったんだよ、糞。
「あれ〜〜、中也になまえちゃんじゃない。奇遇だねえ」
「その声は……チッ」
突然、太宰の野郎が姿を現した。隠す気もなく舌打ちをする。
「あっ太宰さん、お疲れ様です」
「手前、如何してここにいるんだよ」
「なまえちゃんお疲れ。いや何、この近くで任務があったのだよ。何やらおもしろそうなことをしているようだから、邪魔しに……いや、様子見にね」
「オイ本音出てんぞ包帯野郎」
嗚呼、腹が立つ。此奴を見るだけで胃がムカムカするのに、みょうじといる時間を邪魔されたと思うと余計に腹が立つ。……腹が立つ?
みょうじはただの後輩だ。放っておくと危なっかしくて見てられないから、面倒を見ているだけだ。なのに何故、こんな感情を抱く?
「いやあ、それにしても勿体無い」
考えこんでいた頭は、太宰の言葉によって現実に引き戻された。
「実に勿体無い。何故なまえちゃんの指導係は中也なんだい?」
「手前には芥川がいるだろ」
「そんな!今すぐにでも交換したいくらいだよ。折角の包帯仲間なのだし」
「はは……」
「またその話かよ……みょうじも苦笑いしてんじゃねえか」
「いえ、お気になさらず」
みょうじは常に脚に包帯を巻いている。今日は動きやすいためになのかパンツスタイルだが、いつもは膝丈のスカートから除く脚が肌色を一切見せないくらいだ。古い傷が治らないからなのか、あまり詳しくは聞けなかったが他人に見せたくはないらしい。その包帯のせいか初めてみょうじに会った太宰は「ふふ、私とお揃いだね。どう、一緒に自殺でも?」と話しかけていた。みょうじがドン引いていたのをよく覚えている。
「大体用も無しにわざわざこんな所来ねェだろ。要件は何だ」
そう吐き捨てると、太宰はにっこり笑って言った。
「首領がお呼びだ。二人ともね。任務じゃない?」
そういうことは早く言えよ、莫迦。