介入


「…きよみちゅ?」

「…あぁ、ごめんね、怖かったね」


御手杵に抱えられたべにが、不安げな声で名前を呼ぶ。
声を荒げていたわけではないのに、感受性豊かになったものだ。


「一期は、一旦刀に戻って反省ね。ちっちゃいべにを永遠に見続けるのと、大きくなっていくべにを見守るのと、どっちがいいかもう一回よく考えてごらん」


端末を脇に抱えなおして、何かを考え込む一期に告げる。
少し身動きのできない状態で思考を回せば、頭のいい一期のことだから、すぐに戻ってこれるだろう。
あとは、といつのまにか殆ど皆集まっている、他の男士たちに向き直る。
表情は様々、思うところはそれぞれにあると十分顔に書いてある。
三日月が複雑そうな表情で一期を見ているのが見えて、心の中でごめん、と謝った。


「…もし一期と同じような考えを持ってる人がいたら、こっそりでもいいから俺のところに話しに来て」

「…それで一期のように組み伏せるのか?」


少し皮肉げに言ったのは、鶴丸。
若干苦々しくも聞こえるのは、彼もまた、一期を信じていたからなのか。


「…みんながべにのことを愛している限り、俺と反するなんてことはあり得ないよ」


彼女の未来に期待し、不安になり、焦り、夢を見て。
彼女の今を愛し、眩しく思い、不安を覚え、自問し。
彼女の過去に想いを馳せ、後悔し、不安に苛まれ、幸せな日々を振り返り。
つまるところ、子育てなんて不安と愛しさの追いかけっこなんだ。


「べにと永遠を感じたい気持ちなんて、俺が一番感じてるんだから」


その言葉に意を唱えることが、誰にできようか。





結局こんな気持ちで出陣しても怪我するだけだ、ということで、久しぶりにほぼ全振りが本丸に収まる。
遠征に行った何振りかもそろそろ帰ってくるし、と考えて、彼らへの説明に頭が痛くなった。
帰ってきた彼らは、この重い空気に包まれた本丸をどう思うだろうか。
会話がないわけではない。
けれど何となく、声は抑えられる。
誰かに任せようかなぁ、でもなぁ、と自問自答していると、不意に端末がブッと震えた。


「…?」


横に避けてあったそれを手元に引き寄せて、画面を見ればメッセージを受け取ったとの通知。
紺野か、と少しの嫌な予感を覚えながらタップすれば、その内容が表示される。


「…まずいことになったかもなぁ」


ひとりごちて、何度かやりとりをし、みんなを広間に集めなければ、と重い腰をあげる。
俺一人で背負うには、重すぎる。
…ちょうど全員いることだし、ね。





「…“当該本丸の違反を検知した。説明のため直ちに政府に出頭せよ”…?」

「出頭…べに様が、ですよね…」

「でも説明のためにとか言ってくれる辺り、まだ優しいんじゃないかい?」

「うーん…」


ざわざわと、一人一人の呟きが聞き取りきれないくらいには、この本丸も成長してきた。
だからこそ政府も一刀両断に処理するわけにはいかないのだろう。
出頭して、事態が解決したことを伝えれば、厳重注意、くらいかもしれないし。
ただ…


「加州さん…一緒に行く、んですよね…?」

「勿論。べに一人で行っても、説明できないしね」

「加州が渋っているのはここだろう。“帯刀は一本だけ許可する。ただし抜刀はできないように処理する”ってとこだな」

「うん…抜刀ができなくなると、いざという時べにを守れないなって…」

「いざという時って…向こうには紺野もいるんでしょ?そこまでひどいことはされないんじゃない?」

「…うーん…まぁ、気にしすぎ、かな…」


諭されて、そうかも、と思い直して場を締める。
出発は明朝9時。どのくらい拘束されることになるかわからないから、色々準備もしなければ。




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