裏側


※世界観に対するオリジナル設定多数含みます!








「ちょ…っとぉ!何!?」


早くべにのとこ行きたいんだけど!と喚く加州と、無言で抵抗し続ける同田貫の襟首を引きずって、建物から出る修一。
意にも介さずスタスタと歩き続ける怪力っぷりに驚きつつその後に続けば、来た通りの道を歩んで玄関を通り抜け。
広い庭に出たところで徐に二人を持ち上げーーー一気に地面に叩きつけた。


「ぐぇっ!?」「っ!?」

「さぁて、こんなことになってんのに自覚のないお前らに、俺はぶっちゃけまぁブチ切れそうなんだが」

「はぁ…?」

「お前ら、何度出陣した?」


振り返ったかと思えば突然脈絡もない話を始める修一に、訝しげな顔をする3振り。
構わず、修一は続ける。


「何度敵を殲滅した?他の審神者がやってる本丸の数は把握してる?そいつらの出陣回数、殲滅数―――それでも一向に奴らが減らないのは、何でだと思うよ?」

「…前に、敵は仲間をその時代の名もなき刀から無理やり引きずり起こしてるって言ってたじゃん」

「へー。よく覚えてんね」


本当に感心したように目を丸くしてうんうんと頷く修一に、加州の眉間のシワが深くなる。
そんな、審神者にはほぼ伝えられていない情報を与えてたのか、と少し驚けば、こちらの反応もお構いなしとばかりに修一は加州たちにずいと顔を近づけた。
一歩引く二振りに、冷たい声で修一は続ける。


「そんなら、そこから考えてみた?引きずり起こしてんのは、“誰”なのか」

「は?…ーーーまさか」


ついさっき聞いたばかりの事実。
最初の“敵”は、人間が作った“失敗作”の刀剣男士。
どんなに馬鹿な人間でも、そこからさらに敵を増やし続けるようなことはしないだろう。
ーーーならば。


「最初の“失敗作”は、余計な能力も付与されてたんだとよ。科学者たちのフォローができるように、不安定ながらも顕現できる能力を」


あくまで雑兵。
審神者の顕現する刀剣男士ほど形もはっきりしておらず、能力も低い。
ただ、“敵を倒せ”という、その存在理由だけをこびりつかせて。


「たまに居るんだよな、歴史を修正したいって自分から向こうに行くやつが。そういうのが多かった刀剣が、“レア”だってもてはやされるようになるんだよ。ーーー政府が出現率操作してるだけなのにな」


そしてそれらは、歴史修正主義者として雑兵と同じような姿となり、“ボス”としてその土地、その時代を統治する。自分たちの都合のいいように。
そんな、危険分子と判断された刀剣が、II類。
それでも顕現せざるを得ないのは、やはりそれだけの能力があるということなのか。


「ーーーちなみにこれは俺の独自解釈なんだけど」


修一の目が、こちらを向く。
いつのまにか合流していた紺野が横に立っていて、その身体が僅かに揺れた。


「ブラック本丸から消えた、刀剣破壊として報告される刀剣男士の数。―――検非違使が、報告されるようになった時期」

「………は…?え、ちょっと、どういう…」

「相関、あるだろ。管理官さんらよ?」

「………」


四対の視線にさらされ耐え切れず目を伏せる紺野も、気付いていたんだろう。そもそもの敵は刀剣男士で、雑兵も不安定ながらも刀剣男士。そして突如現れるようになった、検非違使の正体。
これを“自然発生した”などと片付ける奴は、少なくとも科学者の中にはいないだろう。
ブラック本丸の潰れた時の実力はまちまち。無理な出陣を繰り返したであろう彼らは、勝てる戦い…自分たちより弱い相手を探す。戦いを終わらせるために。政府に、元の主に見つからないように、居場所を転々として。
どれも状況証拠でしかないが、否定できるだけの材料はない。
苦い気持ちで修一を見返せば、ため息をついて「ま、いいけど」と流される。
…答えられないことをわかって聞くとは、相変わらず性格が悪い。


「俺は、自分を守るために戦いを続ける。自分の“今”と“未来”を守るためにな。俺が手元に置いてるのは、それを知った上でそれに賛同してくれる奴らだけだ」


カタリと修一の腰の刀が震える。
基本近侍を固定しない修一だ、今侍らせているのも正直誰かわからないが。
応えるように一撫でして、その優しげな表情から一転、ため息と共に顔を上げ。


「お前らが戦う理由は何だ?俺らと同じ理由なら、任せとけよ。政府の言うことなんてほっとけ、そこの管理官の仕事だ。政府は出陣意欲をなくした審神者に何もしない。下手に触ってブラック化される方が困るからな。もしこれまでに政府に縛られてるとか不便だとか感じたんなら、それは審神者が何もしてないからだ。所詮外野の管理官ができることなんてタカが知れてるだろ」


審神者が本丸に完全に引き篭もった状態で何もしないなら、それはブラック本丸として処理される。
本丸内で作る作物には限度があるし、自ら引き篭もったにせよ閉じ込められているにせよ、全員の食糧が賄えず顕現を減らしたなら、待つのは孤独・不和崩壊。
何件も何件も、同じ現象に対応してきた政府は、そこへの対応は迅速になった。
けれど今回は、例外中の例外。審神者にできることは限られているが、豊潤な霊力が全てを補う。
審神者の霊力を糧に育つ作物は際限なく豊作で、顕現に必要な霊力が枯渇することもない。


「戦う必要、ないんだよお前らは。さっさとチビを人間に預けたらよかったんだ。そうすればまだ、人間でいられたろうによ」

「………にん、げん…で…?」

「戦えば戦うほど、あのチビは霊力の使い方を覚えていくだろ。どんどん、人より神に近くなっていく。人の下で育てばもう少し霊力も抑えられたろうに。神に囲まれて育ったアイツは、もう人には馴染めない」


だから、残る道は一つ。


「だからさっさと、潰れちまえばよかったんだよ」


苦々しげに吐き捨てる修一に、誰も、何も言い返すことができなかった。





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