君が
「日向ボゲェ!タイミング悪いんだよ、避けきれてねえだろうが!」
「うううううるせえよ!ここすっげー難しいんだからな!」
「日向さっきからそこで引っかかってるよね」
「学習能力ないんじゃない?」
一年生の四人組が、さっきから日向の手元をのぞき込んでわいわいと騒がしい。
どうやら最近、一年の中で“ロスト都市”というスマホアプリのゲームが流行っているらしく、部活の後は短時間ではあるが特に示し合わせた様子もなく誰かのスマホに群がっている状況だ。
普段はバレー以外、一緒にとか、協力してとか、そういう言葉が全くそぐわないあいつらだけど、ことこれに関しては意外と趣味が一致したらしい。
「飽きないなー、あいつらも」
「結構癖になるぞ。力もやってみるか?」
「え、田中もやってんの?」
「あいつら見てたら、興味わいてよー」
ストーリーもいいんだよな、ユキちゃん可愛いし!という田中と、アキラかっけえ!と目を輝かせる西谷。
どこが気に入るか、興味は人それぞれだよな、と若干呆れ顔を見せながら、縁下は田中に押し付けられたスマホの画面に目を落とす。
静かなBGMと共に浮かび上がった白っぽい街の景色に、一体どんなストーリーなんだろうと少し興味がわいたのが、その横顔から簡単に読み取れた。
「お、縁下も影響されたかー」
「もうだいぶやってるよな、このゲーム」
「全員でゲーム囲むなんて、モン○ン以来かもな」
あの時はあの時で、田中が姉に借りたというゲーム機を壊してしまってひどい目にあったけど。
またあの時の二の舞にならなきゃいいけどな、と横目で田中のスマホの安否を確認しながら着替える。
三年でも、実は「今回のイベガチャ何出た?」と見せ合うくらいにはこのゲームが浸透しているのだ。
「・・・そういや、梟谷の主将もハマってるって言ってたっけ」
「マジ?これってバレー部に何かヒットする要素あるの?」
「流石に関係ないだろ・・・」
大地からの意外な情報に思わずそう返せば、苦笑した旭がやんわりと否定する。
そうだけどさー、と少しむくれて見せれば、日向が「あっ!倒した!」と叫んだのが聞こえて思わずそちらを振り返った。
「よっしゃ、次ボスだ!」
「やったじゃん日向!もうちょっとでクリアだよ!」
「おう!よし・・・って、あ、あれ?」
怪訝そうな日向の声に続いて、トトトトト、と画面を滅茶苦茶にタップする音。
「・・・フリーズ?」
「はぁあ!?ウソだろ、このタイミングで・・・ッ!!?」
聞こえたのは、そこまでだった。
「・・・で、気が付いたらこの白っぽい世界にいた、と」
「ツッキー・・・れ、冷静だね・・・」
「日向見てたらそりゃ冷静にもなるよ」
月島が周囲の異変に気付いたとき、真っ先に耳に飛び込んできたのは日向の「何ココ!?スッゲー!」という大はしゃぎの声だった。
はっとなって慌てて辺りを見渡せば、嫌でも目に飛び込んでくる白灰色の世界と、その中でひと際目立つ、オレンジ。
縦横無尽に駆け巡るそれをガン無視してもう一度確認しても、こっそりと腿をつねってみても、現実は変わらない。
ここは―――
「ここゲームの中の世界だよな!?スッゲー!」
「・・・?ゲームのイベントか?」
「実体験型無料ゲームとか新しすぎる」
影山のあまりにあんまりな発言に思わずいつもと同じように返してしまい、それがなんとなく気に入らなくてそっぽを向く。
王様が「あ゛?」とかガンつけてきたけど、無視だ無視。
「なあなあ!タクヤとか走ってねえかな!タマシイとか現れるかな!?」
「・・・ちょっと。本当にゲームの中だと思ってんの?」
「?だって、そうだろ?」
「・・・・・・」
何で、そんな当然のように断言するのかな。
こっちは少しでも違う可能性を考えてるっていうのに。
「ツッキー・・・」
「ウルサイ山口」
「・・・ごめん」
山口が、空気を読んで口を閉ざす。
山口に当たってもしょうがないことはわかっているんだけど・・・
「あっ、ヤベエ!どうやったら元の世界に戻れるんだ!?影山、お前なんか知らねーの!?」
「俺がわかると思ってんのか!」
「・・・・・・」
「ツッキー、そのゴミを見るような目はやめた方が・・・」
「ちょっと、そこの君!その雅さの欠片も見当たらない話し方を止めてくれないかな?」
「・・・あ?」
突然影山の後ろから現れた第三者の声に、さらにはその声自体に。
全員が、一斉にそちらを振り向いた。
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