望む


「友人と気を置かずに話すことは結構だけれどね、親しき中にも礼儀ありと言うだろう!もっと品のある話し方をしてくれ。まるで僕が暴言を吐いているみたいじゃないか!」

「・・・?」

「すっげー!影山と声そっくりだ!」


眉に皺を寄せて唇を歪める、“怒っています!”っていう表情のその人は、日向の言う通り影山と声がほとんど同じだった。
いや・・・多分どっちかがどっちかに話し方を似せたら、聞き分けできないんじゃないかな・・・
・・・ていうか、誰!?
突然現れたその人は紫色の髪に派手な着物で腰に刀を差していて、どこからどう見ても普通じゃない。
少なくとも、現代の一般的なファッションじゃないんだけど・・・え、コスプレか何か?
影山も首を傾げているし、知り合いというわけでもなさそうだけど・・・


「すみません、こちらに・・・」

「ヒョォッ!?」

「とても元気な小夜の声が聞こえると、思ったのですが・・・」


今度は日向の後ろ。これまたすごい恰好の・・・でもあれ、お坊さんのつける・・・なんだっけ・・・?
とにかく、大きな布を身体に巻いた人が、今度は3人。
すごくゆっくりしゃべる白っぽい人の隣で、全体的にピンク色の、雰囲気が未亡人っぽい人が「はぁ・・・」と妙に色っぽい溜息をついていた。


「酷いものです。小夜と同じ声で、こんなにも可愛げがなくなるなんて」

「に、兄さんたち・・・」


そして、二人の間でオロオロする、青い狐目の少年。
小さい声でたったそれだけの言葉だったけれど、その子の声が日向とそっくりなことに気付くには十分だった。


「はぁ!?な、なんらよこの人ら!」


明らかに馬鹿にされた感じの言い方に、日向がびびりながらも噛みつく。
でもなんか関わったらやばそうな雰囲気に「や、やめときなって・・・」と小さく言ってみたけど、全然耳に届いてないみたいで臨戦態勢を解こうとしない。
・・・まあ、向こうの大きい二人はなんか子猫にじゃれつかれてるみたいな感じあるんだけどさ。何だろうあの余裕。
それに、やっぱり日向とも知り合いなわけでもなさそうだし、一体・・・?
・・・あれ、そういえばさっき、ここがロスト都市の世界じゃないかって話だったよね?


「まさか・・・あの人たち、アキラと同じような、実体化したタマシイ・・・?でも、こんな人たち、タマシイにいたっけ?」

「・・・新しく追加されたんじゃないの。それより問題は、どうやったら元の世界に戻れるのかってことで」

「わっ!」


ショ、とツッキーが言い終わるのとほぼ同時。ツッキーの後ろから、突然大きな声とともに何かが飛び出してきた。
何!?と二人で目を見開いて振り返れば、真っ白。
いや、真っ白な着物に身を包んだ、髪まで白い線の細い人がニヤニヤと楽し気な表情で立っていた。


「あっはははは!驚いたか?ああ、いやいや、すまんすまん」

「・・・・・・」


ツッキーの極寒の視線を受けて、その人が悪びれもなく謝る。
それどころかすごく目をキラキラさせてこちらの反応を伺っているあたり、愉快犯で間違いないだろう。


「・・・なんなんですか、あなたたち・・・ていうか、その声なら王様のとこと同じように山口のとこに行けばいいじゃないんデスカ」

「まぁ、それもいいが・・・」


その声?と首を傾げる。確かにその白い人とツッキーの声は全然違うけれど、かといって自分では似ているとは・・・


「どーん!」

「うわぁ!?」

「えっへへへ〜、鯰尾藤四郎、ただいま参上、ですよ!」


あ。今度こそわかる。声が全く同じだ。
突然後ろから覆いかぶさられて驚いたけれど、俺よりずいぶん小さい少年は楽しそうに首にぶら下がっていて、あっさりと毒気を抜かれる。
白い人とは対照的に上から下まで真っ黒なその子は得意気に名乗ると、ひょいっと首から離れてふざけ半分で敬礼をする。
軍人っぽい格好と相まって、戦えるんだろうな、なんて勝手に想像した。


「あいつがどうしても、というからな。俺はその相棒を助けてやろうと思ったまでだ」

「別に、相棒とかじゃ・・・、・・・助ける?」


白い人の言葉にツッキーが首を傾げると、白い人は「あぁ、」と頷いて説明しようと口を開ける。
けれどそれに被せるように、向こうで何故か影山と同じ声の人に正座させられていた日向が「わかった!」と声を上げた。


「俺たちロストの中心に向かえば、俺たちの世界に戻れるんだな!」

「・・・まぁ、端的に言ったらそうなるね」

「はぁ!?何でそんなことに・・・」

「あっ!どうしよう!俺、スクーター乗れない!」

「走ったら駄目なのか」


なんだかずれたところを心配している日向と影山だけど、正直寝耳に水な俺たちは疑問符しか浮かばない。
ていうか、何でそんな話になってんの!?


「ていうかそもそも、何であんな危ないところに突っ込んでいかなきゃならないわけ?」

「んー、まぁなんとかなりますって!」

「「は!?」」


思わずツッキーと声をそろえて突っ込んでしまった。後で怒られないかな・・・
でも、戦えるとかそういう以前になんかノー天気っぽいその子が何に「何とかなります」と言ったのかもわからなくて、「あの、どういう・・・ことですか?」ともうちょっと話が通じそうな白い方の人に問いかけた。
白い人は「ん、」と一つ頷くと、やっぱり楽しそうに、自信満々に笑う。


「実際、お前らは狙われる理由がないからな。前後不覚状態のはぐれタマシイはまれに襲ってくるかもしれんが、安心しろ。そこは俺たちが守ってやる」

「いやだから、そこに行かなきゃならない理由が・・・」

「つべこべ言ってないで、行きますよ」

「・・・怖いの?」

「・・・・・・」


ピンクの人に上からものを言われ、小さい子にプライドを傷つけられ。
ツッキーの機嫌が急降下しているのを感じてヤバイヤバイ・・・!と冷や汗をたらしていると、同じように雰囲気を感じ取ったらしい白い人が宥めるように両手を上げた。


「まあ聞け。ロストの中心では、世界線が交錯しているんだ。そこに向かえばもしかしたら、お前たちの世界に繋がる穴もあるかもしれん」

「そんな不確定的な・・・」

「だが逃げたところで、行く宛もないだろう?」

「っ・・・」

「ほら、行きますよー!」


黒い人に手を引かれて、押し黙ってしまったツッキーを気にしながらも足を動かしてその人に続く。
結局、この人たちは一体何なんだろう?何で俺たちを守ってくれるんだろう。
できれば無事に家に帰りたい・・・なんて、普段なら冗談で思えるはずの言葉を真に願った。


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