守ると


「へーっ、じゃあ俺たちなんかよりずっと年上なんですね」

「そうだね。僕らがこの姿をとるようになったのは2215年からだけど、本体の刀は安土桃山時代に打たれているから」

「うわっ、時代物。ていうか、未来から来たんだ」

「本拠地みたいなのは一応、ね。前の主は土方歳三だったんだけど・・・知ってる?」

「えっ、あの新撰組の!?うわ、有名人じゃん!」

「ホントに?嬉しいなぁ」


ほのぼのとした会話を遠くに見て、その手前に目を向ける。


「戦うなんて危ないって・・・!怪我したらどうするんだよ・・・!」

「そんなにやわじゃねーよ!それに、オレたちはお前らを守るために来たんだぜ?守られるつもりはねーよ!」

「で、でも、こんな小さい子に守られるなんて・・・!」

「だーかーらぁ!ナリはこんなでも、お前の何十倍も生きてらぁ!」

「と、歳はそうかもしれないけど、身体の大きさも小さいし、それに、武器だってそんなに短い刀じゃ、」

「組みついちまえばオレのもんだ!いいから、戦う術のあるオレたちに任せとけ!」

「う、うぅ〜・・・!」


大小で性格を入れ替えた方がいいんじゃないか。
前方の仲睦まじい様子から一転、小さいのに叱られる大きいのという構図にただただため息が出る。
現実味のない状況で、それが妙に普段通りなものだから・・・何故か安心してしまうなんて、口が裂けても言ってやらないが。
それでもその二人が揉めているせいで進まない足取りに若干イラついて「チッ」とつい舌打ちを鳴らせば、隣からクスクスと大人っぽい笑い声が落ちてきた。


「優しい子だね?」

「へなちょこなだけですよ・・・全く、」

「けれど、君はそんな彼を気に入っている。そうだろう?」

「・・・まぁ、ああじゃなきゃアイツじゃないですからね」


全て見透かされたような言いぶりに、神様ってやっぱりそういうものなのかと少し思ったが、前の二組を見てそうでもないな、と自分の考えを打ち消す。
きっとこの人の(いや、神の)個性というやつもあるのだろう。
前を行く二人の神様が俺たちよりも小さいのに対してこの人は身体も大きいし、持っている刀も大きい。
敵が来ても、この人を中心に戦ってもらえばきっと大丈夫だろう。
よく知りもしない戦況なんてものを考えながら歩いていれば、ふと少し離れた場所に緑色のスフィアが浮かんでいることに気付いた。
一つだけぽつんと浮かんでいる様子ははぐれものみたいだが、緑はこの人の力になるらしいし、拾いに行って損はないだろう。


「ちょっと取ってきますね」

「ああ、気を付けて」


大して離れてもいないそれに、油断した、と言い訳をしてもいいだろうか。
まさか、―――物陰に、タマシイが隠れていたなんて、思いもしなかったんだ。


“―――引っかかった♪”


「え・・・」


気付いた時には、“そいつ”はこちらに照準を合わせていて。


「!澤村君!」


石切丸さんの慌てた声が、遠くに聞こえた。






「闇討ち、暗殺、お手の物・・・つまり、相手の手口も予想済みってね!」


キィン!

一瞬真っ黒になった視界に、何が起こったのかわからずに目を瞬かせる。
なんだか妙に首が締まった感覚にゴホゴホと少しむせると、誰かに背中を撫でられていることに気付いた。


「大地!」

「大地、大丈夫か!?」

「え、あ・・・お前ら、何でこっちに・・・」

「お〜し、突撃だぁ!」


さっきまで向こうにいたはずじゃ、と今度こそわけがわからなくて視線をさまよわせる。
と、さっきの黒が視界を横切ったのに、思わず目がつられた。
小さな背中を目で追っていると、再び「大丈夫?」と確認のように聞かれる。


「大地、喉キメられてたから・・・もしかして意識飛んでた?」

「飛んでた・・・?」


ということは、もしかして。
俺、あの子に首根っこ引っつかまれてここまで来たのか・・・!?
厚藤四郎と名乗った男の子の背中はもうさっきのタマシイのところまで行っていて、見かけによらず力が強いことに驚く。
けれどそれよりも、石切丸さんがのんびりと俺たちの傍にいることの方が衝撃だった。


「ちょ・・・あの!?戦わないんですか!?」

「ははは、すまないね。馬もないこの状況では、彼らには付いていけないよ」

「そんな・・・っ」

「まぁ、」


慌ててもう一度戦っている二人に目を向ければ―――圧巻。


「私が向こうに着く頃には、すべて終わっているだろうからね」


相手の懐に潜りこんだ厚君が。後ろに回り込んだ堀川君が。
タマシイの身体に深々と刀を突き立てているのを見て、息をのんだ。


「ははは、私はお役御免だったかな?」

「そんなことありませんよ!石切丸さんは集団で来られた時に大活躍してもらわないと!」

「今はとりあえずそっちの三人守っててくれなー!」


消滅していくタマシイを振り返ることもなく戻ってくる二人に、本当に、戦いに慣れているんだな、と。
少しの畏敬の念を含めて、「ありがとうございました、」と頭を下げた。


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