必ず


「あ!これがスフィアじゃねえか!?」

「俺も詳しいことは知らんが、おそらくそうだろう。力を感じる」

「よっしゃあ!集めるぜー!」


どうやら、スフィアは一か所に集まって現れる傾向があるらしい。
見える範囲にそれなりの量光の球がふよふよと浮いているのは正直奇妙な光景だが、確かに膝丸の言うようにそこから力が感じられる。
何の警戒もなくそれに走り寄っていく西谷に縁下が「ちょ・・・!」と止めに入ったが、間に合う様子もなく。
西谷が触るとその光は吸い込まれるように消え、代わるように膝丸から光があふれた。
少し驚いたように目を見開いていたが、何かを確認するように一度、二度と手を握りしめる膝丸。
そして確信したようにしっかりと頷いた。


「・・・うむ、力が満ちて行く」

「よっしゃあ!」

「どういう原理だよ・・・」


見たこともない超常現象に、縁下の脳はキャパオーバー気味らしい。
けれど頭を抱える縁下の哀愁漂う背中を、爪の赤く彩られた手が容赦なく叩いた。


「いっ!?」

「そんなこと考えたって仕方なくない?ほら、アンタもさっさと集めてきてよねー」

「えええ・・・」


ほら早く!と縁下の背中をぐいぐいと押すのは加州清光。
守ってもらう立場だから文句が言えた義理でもないが、「俺は赤だから」と当然のようにふんぞり返る加州に、しぶしぶと赤い球を捕まえにいく縁下。
声だけ聞いてると、一人二役で言い合ってるようだ。
聞いてる分には楽しいんだけどなぁ・・・とさっきから菩薩のような顔でそれらを眺める田中の耳元に、「ねぇ、」と声をかけた。


「うおおおっ!?」

「おやおや、驚かせてしまったかな?」

「あ、い、イエ・・・」


声をかけただけで跳ね上がる肩に、本当に耐性がないんだな、と小さく笑う。
けれど、僕が守るようにと指名されたからには、手を抜くつもりはないんだよねぇ。
そのためには、君に協力してもらうに越したことはない。


「僕もね、アレがあった方が高まるんだ。君の色に染めてもらってもいいのだけど・・・」

「うおおおおおおっ!?!?!」

「・・・・・・」


キーン、と耳に響く大音量に、これは本当に言動には気を付けなければいけないようだと覚悟を決める。
普段そういう物言いばかりしているから、意識して言葉を選ばないとそのうち耳がやられそうだ。
赤くなったり青くなったりする田中から少し顔を離して、そっと「・・・僕は、青色を希望させてもらうよ」とだけ告げる。
「わかりやしたああああ!」とすっ飛んでいく様子に「無理はしなくていいからね」と言っただけなのに、「うわあああっ!ノヤっさーん!!!」とさらに加速する田中。
初対面時の初々しい反応に、調子に乗ってしまったのが効いているらしい。


「“僕に身を委ねてくれ”なんて、挨拶みたいなものだと思ったんだけどねえ」


少しやりすぎたきらいのある様子に、今後を思ってはぁ、と小さくため息をついた。


「なーにため息ついてんの?こっちまで気分が重くなっちゃうじゃん」

「・・・君のところはいいね。普段から彼らを相手にしているせいかな、彼も君に馴染めているようだし」

「なにそれ。俺がめんどくさい奴みたいじゃん」


心外だなーと頬を膨らませる加州だが、彼だってたいがい面倒な性格をしているだろう。
自覚がある分、自分の方がましだと思うのは間違っているだろうか。


「すみませーん!赤じゃないの触っちゃったんですけど、大丈夫ですかー!」

「え?ああ、何ともないよー!」


向こうから飛んでくる声に返事をして、「赤だって言ったのに」としょうがない、と言わんばかりにため息をつく加州。
めぐり廻れば自分のためではあるが、一応加州たちの力を蓄えるために動いてくれているはずの縁下に少しばかりの同情を覚えた。
報われない星の下に生まれついてしまったんだろうか。


「それにしても・・・同じ声でも、性格の違いでここまで違って聞こえるものなんだねぇ」

「俺だって気遣い屋さんですー」


今度こそへそを曲げる加州だが、今度こそ認識は間違っていないだろう。
それ以上何も言わず苦笑で誤魔化せば、ふわりと自分の身体に力がみなぎるのを感じた。
おそらく、田中が青のスフィアを集めたのだろう。


「ああ・・・いいね」

「・・・それ、あのボーズに聞こえないようにしなよね」


青江の恍惚とした表情に、今度は加州が嫌そうに顔を歪める。
素知らぬ顔で肩をすくめて、放っておくとスフィアを集めることに熱中してどこかへ行ってしまいそうな彼らの下へ近付いた。
彼らの目的は、元の世界に戻ること。
自分たちに課せられた命は、彼らを無事に元の世界へ返すこと。


「いくらタマシイとはいえ、近寄ってきた幼子を斬り捨てるのは・・・いい気分ではないけれどね」


視界の端に映った、ぬいぐるみを抱えたタマシイ。
極力それを意識しないよう、その首を一瞬で―――切り落とした。


=〇=〇=〇=〇=〇=
prev/back/next