番外編1



「にやにやして気持ち悪い」

「ひ、ひどいっ…でも…何も言えない…」



僕の嫌味にもふにゃり、と笑う姫に小さくため息をつく。

どうやら僕のおかげで、僕のおかげで(ここ重要。だから2回言う)うまくいったらしい。
綱吉が嫉妬してくれただの、ずっと一緒にいようと言われただの惚気る。僕がうんざりするほど。
僕は君の惚気を聞けるほど暇じゃない、というが姫の耳には届いていないらしい。
はぁ、とこの上ないほど幸せそうなため息をつく姫にこちらは重たいため息をついた。

この幸せオーラいっぱいの娘をどうにかしてくれ。

もう無視しよう、と書類に目を通し始めた瞬間、パァァン!と勢いよく襖があく。



「よぉ、恭弥!元気か!」

「……咬み殺す」

「お、おい!なんでだよ!!」



また厄介ごとが舞い込んできた、と痛む頭をおさえる。
姫に惚気られ、跳ね馬にうるさくされるなんて、今日は厄日か。

とりあえず投げつけたトンファーを拾い上げ、落ち着くために姫がたてたお茶を啜った。

相変わらずだぜ、と勝手に座り込む跳ね馬に冷たい視線を送ったが、彼には伝わらなかったようだ。



「あれ?もしかして、姫か?」

「跳ね馬のディーノさま。お久しぶりです」

「久しぶりだなぁ!寝込んでたって聞いたが、もう体調は大丈夫なのか?」

「はい。おかげさまで」



先ほどまでふにゃふにゃだった笑顔を少しだけ引き締めて上品に笑う姫はやはりさすがだ。
オルマーノで箱入り娘として育てられただけある。

沢田も見習え、など考えていると「恭弥とは仲がいいのか?」と首を傾げる。



「はい、仲良くさせていただいています」

「へぇ!あの恭弥と仲良くしてるのか!」

「仲良くした覚えはないよ」

「ふふ、ごめんなさい。一方的に仲良くさせていただいています」

「すげぇな、姫…咬み殺されねぇのか?」

「そういえばありませんね」



いつ咬み殺されてもおかしくないことをしているんですけど、という言葉に自覚があったのかとぼんやりと思う。

何かあれば(主に綱吉のこと)すぐに僕のところにきて愚痴ったり惚気たり……
咬み殺そうと何度思ったかわからない。…実際に咬み殺さないのが不思議だ。



「もしかして恭弥…お前、姫のこと好きブヘッ!!」

「バカなこと口走らないでくれる」



どうしてこの跳ね馬は変な勘違いばかりするのだろう。
誰がこんな綱吉一筋の女を好きになるんだ。

トンファーで思いっきり殴りつけ、いらいらした気持ちが少しだけ軽くなる。
大丈夫ですか、と心配する姫に跳ね馬は「あぁ、慣れてるからな」と苦笑する。



「姫、お前は恭弥のことが好きなのか?」

「え?あ、はい。友達として好きです」

「そうじゃなくて、」

「ディーノさま、私が愛してるのは綱吉だけですよ」



微笑みながらさらりと言いのけた姫に跳ね馬は呆気に取られている。
まさか姫がこんなことを言うとは思っていなかったのだろう。

固まった跳ね馬に小さく嘲笑すると僕は再び姫に「お茶」と要求する。
はい、と穏やかな笑みを浮かべてお茶をたて始めた姫。お茶をたてながら沢田のことでも思い出したのかまたふにゃりと笑い始める。

あぁ、この混沌とした空気はいつまで続くのだろう、とぼんやりと考えた。



一番の被害者

ねぇ、それって僕じゃない?

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