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恭弥が病室から出て行って、綱吉と二人っきりになる。
一体何をそんなに怒っているのだろうか……確かに距離は近かったかもしれないが、恭弥とそういう関係ではないことは綱吉も知っているはずなのに。
怖いくらいの沈黙の中、私も話しかけることもできずにいると急に綱吉が私の方を向いて、私の肩を掴み、…私にキスする。
「…っ!?」
突然のキス。
何度もくっつきは、離れて、ついばむようなキスが続く。
え、え?と混乱したが、綱吉からのキスが嫌なはずがなく、静かに受け入れる。
ドキドキと高鳴る心臓の音を聞きながら綱吉とのキスに集中する。
ちゅ、と音を立てて綱吉の顔がゆっくり少しだけ離れる。
恥ずかしくて、伏せたままの瞳。
おでこがくっついたままで、心臓は痛いくらいに高鳴っていた。
「キス、」
「……」
「雲雀さんとのキス、消毒したから…」
「え…?」
「もう、おれと以外しちゃだめだよ…?」
「…恭弥と、キスなんてしてませんけど…」
「え?」
綱吉の顔がぱっと離れて、私を真ん丸な目で見つめる。
事態を飲み込めていない綱吉に「さっきは顔を近づけられただけで、」と説明すると綱吉は「(やられた…)」と片手を顔につけて、俯いていた。
どうやら綱吉は恭弥にキスされていたと勘違いしていたらしい。
その勘違いが可愛くてふふ、と笑うとむすっと綱吉が私をにらむ。
「ふふ、綱吉」
「…なに?」
「嫉妬、してくれたんですか?」
この前までは私ばかりが嫉妬していたのに……
私の言葉に綱吉があからさまに目線を反らしたから、嬉しくて笑みを止めることができない。
ふふ、と笑い声をもらしていると、…綱吉の唇が再び私の唇に重なる。
「嫉妬したよ」
「…っ、」
「悪い?」
開き直る綱吉に今度は私が赤くなる番だった。
顔を真っ赤にして絶句している私に満足したのか、綱吉は笑みを浮かべて私の頭を優しく撫でる。
かなわない、と思ってしまうのは惚れた弱みなのだろうか。
綱吉は乗せていた手をするりと私の頬に触れさせると、とても優しい瞳で私を見つめた。
「ずっと、一緒にいよう。姫。…もう、不安になんてさせないから」
「…はい…私も、ずっと…綱吉と一緒にいたいです」
お互いに微笑みあうことの、なんて幸せなことなんだろう。
この幸せが大きすぎて、怖いくらい幸せで……胸がいっぱいで、涙がこぼれる。
綱吉は私の涙を優しく拭うと、そっとゆっくり顔が近づく。
私も綱吉にあわせてそっと目を伏せると、世界で一番優しくて、甘いキスが降ってきた。
私はずっと、鳥籠の中だった。
自由に恋愛することも、自由に結婚することもかなわなかった。
窮屈な結婚の中で、…愛しいあなたと出会った。
最初は愛せないと言われたけれど、いつからか…私の心には、あなたがいた。
愛していないと思っていたあなたは、私を愛してくれて、…その気持ちが本当なのか自信がなくなったこともあった。
でも、あなたは私を信じて、真剣に気持ちを伝えてくれた。
私はもう、鳥籠の中にいるだけの鳥じゃない。
愛しいあなたと、一緒に……広い世界に羽ばたいていく。
大好きです、綱吉。今からも、これからも、ずっと。
鳥籠と大空
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