君のことを知りたいと思った日


それからすぐにローが無表情のまま姫の病室に入ってきた。
容態は、と短く問われ、安定していることを伝えると少しだけピリピリしていた空気が和らいだ。

ローは姫にゆっくり近づくとその手を恐る恐る握りしめた。
…その温かさに触れることを恐れていたように。

そっと触れた手はローにとってどう感じたのかはわからない。
ただ、それからローはただ姫の顔を見つめているだけだった。




「…ペンギン、オレは医者失格だな。自分の感情を優先させて、自分の使命を放棄した」

「……ロー、」

「ハッ…こんなにも、乱されるとは…思ってなかった」

「…………」




自嘲的に話すローにオレはかける言葉が見つからなかった。

確かにあんなローは初めて見た。…珍しいとも、思ったし、危機感も感じた。
だが、あのローもその事実を感じているとは思っていなかったのだ。

ローはゆっくり姫の手を握りしめながら姫の髪を撫でる。
その手つきは今まで見た中で一番、優しくて。
…やはりローには姫が必要なのだと改めて感じさせる。

しばらくローは姫の頭を撫でていたが、ぴくりと姫の瞼が揺れてローは慌てて立ち上がる。
姫、と何度も名前を呼ぶと小さく掠れた声で「ロー」と姫の声が聞こえた。




「わかるか、姫」

「…う、ん……ごめん、なさい…医者が倒れるなんて…医者失格、だね」

「ばかが。医者である前に一人の人間だろ」

「ふふ…ごめん」




笑う姫にほっとしているのはきっと俺だけじゃない。

ローは姫の気分などを聞きながら、優しく姫の頭を撫でる。
二、三言話をした後、姫も疲れたのか緩やかに笑ってそっと目をつぶった。

その様子をローは包み込むような目で見守って、…姫が寝たのを確認すると俺に視線を向ける。




「ペンギン、…すまない」

「…いや、」

「また…来る」



そう言って出て行ったローの背中が小さく見えたのは、きっと姫の前ではローがただの男だからだろう。

…なぁ、姫…お前に一体何があったんだ?
何故、俺たちの前から黙って姿を消したんだ?どうして…記憶がないんだ?
聞きたいことは山ほどある。でも、…俺たちは、聞くことができないのだろう。

ローには、お前が必要だ。だから…いつか、教えてほしいと思うのはいけないことだろうか。



君のことを知りたいと思った日

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